オフィスコンピュータ(以下オフコン)は,1960年代初頭に電子会計機・伝票発行機として生まれた.米国では中小企業がミニコンピュータ上に事務用アプリケーションを搭載して使用していたのに対し,日本では事務用専用にハードウェア,OS,周辺機器およびアプリケーション開発言語などを開発した超小型電子計算機としてオフコンが登場して日本独自の発展を遂げ,1970〜80年代の高度成長期の中堅・中小企業の生産性向上を支えた.
オフコンという名称は,1968年に三菱電機が発表した元帳会計計算機MELCOM81で最初に使用された.コンピュータの分類名としてのオフコンの定義は,1975年の日本電子工業振興協会(電子協 JEIDA,2000年に日本電子機械工業会と統合され,電子情報技術産業協会 JEITAに改組)のものが最初である.
<1975年のJEIDAによるオフコンの定義>
- 事務処理を主業務とする小型あるいは超小型電子計算機である.
- オペレータが直接操作することができ,伝票発行から元帳処理,作表などの後処理までできる.
- 基本構成として,入出力機器,ファイル装置を有し,必要に応じて,オンラインもしくはインライン処理を行うことができる.
- 専任のプログラマ不在でも利用でき,また,必要に応じて容易に業務処理プログラムの作成ができるように事務処理用言語を装備している.
- 運用条件として,通常の事務室で一般の事務機と同様に利用でき,必ずしも専門のオペレータを置く必要はない.また,デザインやスペース(占有面積)についても,利用環境を十分に配慮している.
- 価格条件としては「標準構成で1,000万円未満」とする.
その後,若干の小変更のほかに,価格条件が数回改訂され,価格条件は1989年に削除された.1992年に,以下のように全面的に改定された.
<1992年のJEIDAによるオフコンの定義>
- この定義は,汎用コンピュータ,ミニコンピュータ,パーソナルコンピュータおよびワードプロセッサと通常呼ばれるものは除くこととする.
- 帳票類・経営管理資料の作成等の事務処理を主用途とした小型あるいは超小型コンピュータである.
- オペレータの直接操作により,伝票発行から管理資料作成などの後処理までできるコンピュータである.
- 科学技術計算・計測制御等は可能であっても主用途として位置づけられていないコンピュータである.
- 基本構成要素として,制御装置,演算装置,入力装置,出力装置,ファイル装置(補助記憶装置)を有し,必要に応じてオンラインもしくは,インライン処理を行うことができる.
- 運用に当たっては,通常の事務室で一般の在務機と同様に利用でき,次のような諸条件を満たしているコンピュータである.
- 電源条件:商用電源を使用し,かつ大がかりな電源設備工事が不要.
- 設置条件:大がかりな空調設備工事等が不要で,デザインやスペースについても利用環境が十分に配慮されている.
- 運用条件:コンピュータの基本技術に関する深い専門知識や専任オペレータを必ずしも必要とせずコンピュー タとしての基本機能が使用できる.
- コンピュータの有効な活用をはかるうえで必要とされる,次のような基本的なサービス体制が整備されている.
- システム設計:導入時の業務設計等
- ソフトウェア作成:業務プログラム作成,パッケージソフトの提供等
- ハードウェア保守:設置場所での迅速な保守および予防保全等
黎明期
オフコンの分野は,1960年代の初めから国産技術により我が国独自の発展形態をたどってきた.1961年にカシオ計算機からTUC コンピュライターが,日本電気(以下NEC)からパラメトロン計算機NEAC-1201が,またユーザック(当時ウノケ電子工業)からUSAC-3010が発表され,我が国のオフコンの歴史が始まった.その後も各社が独自の技術により事務処理用超小型電子計算機を次々開発し,市場に投入した.1962年にはシャープがリレー式の伝票発行機CTS-1,1963年には東芝が紙テープベース伝票発行機TOSBAC-1100A,1967年には沖電気OKITYPERを活かしたOKIMINITACシリーズ,1968年には三菱電機が初めてオフコンと命名した元帳会計計算機MELCOM81,さらに1970年にはリコーが64ビット演算機RICOM 8により市場に参入した.
1965年には汎用機をベースに,富士通通信機製造(現富士通)はバッチ処理ができるFACOM 230-10を,日立製作所(以下,日立)は全面的にIC化したHITAC-8100を発表した.その後,日立は1970年にHITAC-1を,富士通は1974年にFACOM V0を発表した.1970年代半ばに入ると後のオフコンの主流となるストアードプログラム式の超小型電子計算機が発表され始めた.1973年には東芝が大規模システムのブランチマシン,リモート端末としても利用できるTOSBAC-1350を,NECがマイクロプログラム方式のNEACシステム100を発表した.また,シャープはマルチタスク機能を持ち,磁気ディスクによる仮想記憶方式を採用したHAYAC-5000を開発した.
発展期
1970年代後半からはLSI技術をはじめLSIマイクロプロセッサ,高速ドットマトリックスプリンタ,フロッピーディスク,リムーバブル方式に代わって固定磁気ディスクなどの新技術の出現・普及により小型低価格のデータ処理システムが実現されるようになった.1976年には,はやくも16ビットマイクロプロセッサを利用したオフコンNEACシステム100E, F, JがNECで開発された.また,沖電気はディスプレイによる会話形式操作を可能にした同社初のオフコンOKITACsystem9シリーズを発表した.
オフコンではCRTディスプレイを用いた対話型OSが主流になり,また一方では汎用機と同じようにマルチタスク,マルチジョブOSが実用化され始めた.大企業でも分散処理システムの衛星コンピュータとして広く導入された.1970年代末ごろからは日本語処理が実用化され,ユーザに歓迎された.1978年に東芝は我が国初の本格的漢字オフコンTOSBAC漢字システム15を発表した.これに続いて漢字対応機として,富士通のFACOM V-830,沖電気のOKITACsytem9 K,カシオのΣ-8700が1979年に,三菱電機のMELCOM80 日本語シリーズ,日立のHITAC L-320/30H,50H,NECのNEACシステム50II,100II,150IIが1980年に発表された.沖電気は1982年に国産初のかな漢字連文節変換機能を搭載したOKITACsystem9Vシリーズを発表した.
日本のオフコンの市場は1960年代末までに100億円規模,1970年代末までには1,500億円規模と大きく成長した.1980年代前半には,オフコンに32ビットアーキテクチャが採用されるようになった.1982年に,三菱電機はオフコンで初の32ビットアーキテクチャを採用したMELCOM 80 OFFICELANDシリーズモデル500を発表した.翌年,日立は多機能オフコンHITAC L-30,50,70シリーズを発表し,L-70/20のステーションコントローラのCPUには日立独自32ビットアーキテクチャのVLSIを採用した.またシャープは,オフコンで初めてUNIXを搭載したOAプロセッサOA-8100を発売した.1984年にNECは,国内初の32ビット1チッププロセッサを採用したオフコンNECシステム100/58などを発表した.
富士通が1984年に発表したFACOM K-10は,COBOLアプリケーションの実行環境とOAツール機能の両者を持ち,さらにホストコンピュータのワークステーションとしても使用できることから,小型卓上オフコンのベストセラー機になった.同年,東芝は32ビットでシングルアーキテクチャのTOSBAC Qシリーズを発売した.
成熟期
1980年代後半にはオフコンは小型汎用コンピュータに匹敵するレベルまで高度化し,またエンドユーザコンピューティングが進展した.データベースとしては情報分析用検索に適したリレーショナルデータベース(RDB)がサポートされた.1986年には,カシオから32ビットのモトローラ社MC68020を採用し日本語対応UNIXを搭載したオフコンSX-1000シリーズが発表された.1987年にNECはマルチプロセッサを採用した新シリーズNEACシステム3100を発表した.東芝はマルチCPUを採用したV-7000シリーズ上位機を発売し,分散処理コンピュータ「DPシリーズ」とOAプロセッサ「Qシリーズ」のアーキテクチャをV-7000シリーズに統合した.翌1988年には富士通がマルチCPUを採用したFACOM K-600シリーズを発表した. 1989年に日立は集中と分散を融合したネットワーク処理を実現するHITAC L-700シリーズを発表した.三菱電機では,1989年に発表したMELCOM80/GEOC GRファミリにRDB専用プロセッサGEROを搭載した.
1990年代に入るとオフコンとセンターの汎用機との間でネットワークを介したデータ交換が一層進行するとともに,オフコンにも汎用機と変わらない技術が求められるようになり,上位モデルではシステムの自動運転機能,障害からの自動復旧,ディスクなど主要部品の2重化などが採用された.1990年に東芝は協調分散処理指向のTOP90シリーズの販売を開始し,最上位のTOP90/70はCPUとディスクを2重化して高信頼性を実現した.富士通は1992年にパソコン/ワークステーションとのネットワーク連携を強化したK6000シリーズを発表した.NECが1993年に発表したNECオフィスサーバシステム7200シリーズの最上位モデルでは,ディスクアレイ装置を採用し,ホットスタンバイ機能も提供して信頼性を向上させた.
90年代には,Windows OSとインテル社のマイクロプロセッサとにより高性能低価格化したパソコンが,急速にビジネス市場に浸透した.パソコンがオフコンの標準的なワークステーションとして使われるようになり,さらにWindows NTサーバやUNIXシステムなどのいわゆるオープンシステムが普及し始めた.各社独自のOSのオフコンをオープンシステムに切り替えるために種々の努力が行われた.1994年に,三菱電機はオフコンのアプリケーション資産を活かしながらオープンなクライアント・サーバ・システムを構築できるサーバ RX-7000シリーズを発表した.富士通が1997年に発表したGRANPOWER6000シリーズでは,マイクロカーネルを用意してインテルプロセッサ上でオフコンOS ASPの動作を可能にした.NECではオフィスサーバ資産をもとにWindowsNTアプリケーションソフトとの連携活用が可能なExpress5800/600シリーズを発売した.
オープンシステムへの対抗は次第に困難になり,その後は世界市場を背景としたオープンシステムに小型コンピュータの主役の座を譲っていった.