HIPAC 101,HITAC 301,HIPAC 103など,1950年代から1960年代初めにかけての初期のハードウェアの時代には,まだオペレーティングシステムに相当するものは存在していなかった.この時期のソフトウェアとしては,プログラムをパンチカードや紙テープから入力して機械語に変換する記号入力ルーチン,擬似命令を機械語に変換しながら実行するインタープリタ,関数ライブラリ等を個別に提供していた.
1964年のHITAC 5020で日立最初の本格的OSが登場した.この時期はまだオペレーティングシステムではなく,モニタシステムと呼んでいた.モニタシステムには,周辺入出力操作,入出力装置の割当て,モニタルーチンの保護などシステム全体に関するシステムモニタと,内部処理における各仕事の連続処理を制御するジョブモニタとがあった.
1965年のRCA社との技術提携を基に日立独自技術を加えて開発した大・中型汎用機HITAC 8000シリーズからはOSという呼称が使われている.OSとしてまず,POS(Primary OS),TOS(Tape OS),TDOS(Tape Disk OS)をRCA社から導入し,その後,これらをベースにDOS,EDOS,EDOS-MSOと開発が進んだ.HITAC 8000シリーズ最後のOS,EDOS-MSOは大規模バッチ,大規模オンラインおよびリモートバッチの同時処理ができるようになっており,マルチステージによるメモリ管理,ディスクファイルの自動割当てなどをサポートした.
1970年のHITAC 8700/8800用OS,OS7は,仮想空間,マルチプロセサをサポートした本格的な大型ソフトウェアシステムであり,その規模は当時としては世界的にも最高水準をいくものであった.
1972年に出されたNDOSは,HITAC 8250用OSで,主記憶装置が32KB-64KBを中心とする小中規模の中型機ユーザを主対象に開発した.
1974年以降はHITAC Mシリーズ用OSとして,VOS(Virtual Operating System)シリーズが日立の主力OSとなった.VOSシリーズの最初のOSは1974年のVOS2である.VOS2は最大16MBの仮想記憶装置,仮想記憶アクセス法,制御プログラムを中心とした実時間処理機能,拡充された言語プロセサ等を具備したOSであった.
1975年以降,VOSシリーズは中小型OSと大型OSに分かれた.中小型では,NDOS後継OSとして1975年にMシリーズの小,中規模ユーザを主対象にVOS1を開発した.VOS1はNDOSの技術を基礎に仮想記憶機能,仮想記憶アクセス法VSAMをサポートしており,バッチ処理,オンライン処理,リモートバッチ処理など多種多様な利用形態をサポートした.中小型OSはその後,小規模ユーザ対象のVOS0シリーズと中規模ユーザまで対応できるVOS1シリーズに分かれた.
1979年に分散処理コンピュータHITAC Lシリーズ用OSとして出荷開始したOS,VOS0がVOS0シリーズの最初のOSである.1983年のVOS0の後継,VOS0/ESは部門ごとのオフィス業務の効率化,開発・運用コストの低減,他システムとの有機的結合を図ることをねらいとして開発した.
1988年出荷を開始したVOS0/ESの後継,VOS KではYES(Y:do it Yourself, E:Easy to use, S:high Speed)コンピュータをキャッチフレーズに,コンピュータの専門知識を持たない実務担当部門で利用できるよう使い勝手の向上と高速性を追求した.
VOS1シリーズとしては,VOS1の後,1983年にVOS1/ES,1988年にVOS1/ES2を出荷開始した.VOS1/ESではVOS1の後継として,マイクロメインフレーム結合,マルチメディア処理等の機能を強化した.VOS1/ESの後継,VOS1/ES2では,VOS1/ESからの連続性を維持するとともに,分散配置した部門コンピュータとホストコンピュータを連携させる部門分散システム(DDC),帳票データ配布加工システム(Form-MMC),拡張ホストアクセス機能など高度な分散処理機能を実現した.
大型OSとしては,1977年にMシリーズ最上位OS,VOS3を出荷開始した.VOS3では多重仮想記憶装置,マルチプロセサ,資源集中管理機能,RASIS機能の強化,TSS処理機能の充実など大型OSに要求される機能を盛り込んだ.
1982年に大容量ディスクサポート,チャネル拡張等でVOS3を拡張したVOS3/SPを出荷開始した.VOS3はハードウェアバンドルの無償ソフトウェアだったが,VOS3/SPから有償のプログラムプロダクトとした.1984年には31ビット拡張アドレッシング機構をサポートしたVOS3/ES1を出荷開始した.31ビットアドレッシングサポートにより,16MBの仮想アドレス空間を2GBに拡張した.1990年には2GBのアドレス空間を超えて,16TBまでのアドレッシングが可能なデータ空間,スーパ空間を持つM/ASAアーキテクチャをサポートしたVOS3/ASを出荷開始した.
1台の実計算機上に複数の仮想計算機(VM:Virtual Machine)を生成し,各々のVM上でOSをそれぞれ独立に実行させることを可能にした仮想計算機システム,VMSを1979年に開発した.Mシリーズ拡張アドレッシングをサポートし,VOS3/ES1の実行を可能としたVMSのエンハンス版,VMS/ESは1985年に完成した.VOS3/ASの実行を可能とした仮想計算機システム,VMS/ASは1990年に完成した.