富士通のオフィスコンピュータ用オペレーティングシステムの概説史

 富士通のオフィスコンピュータ(以下オフコンと略す)用のオペレーティングシステム(以下OSと略す)の2000年までの歴史を概説する.

 富士通のオフコンは大きく2つの源流を持つ.1つはFACOM 230-10を源流とする流れであり,1つはウノケ電子(1969年にユーザック電子工業と社名を変更,後のPFU)に端を発するUSACシリーズの流れである.両社に内田洋行を加えた3社グループがこの流れを大きな1つの流れへと成長させていった.同グループのオフコンOSも2つの流れが影響しあいながら成長していく経緯を示している.

1. オフコン黎明期(1960〜1970年代)

 同グループのオフコンの流れの最も古い機種は1961年にウノケ電子が完成させたUSAC 5010,3010である.この時点ではまだOSの概念はなかった.USACシリーズは時とともにビリング (伝票発行処理)マシンとしての特性を顕著にし,1971年には同一アーキテクチャに基づいたUSAC 720シリーズが出された.このシリーズにはビリング処理用の簡易言語が用意されるなど,後の同グループのオフコンを特徴付けるコンセプトや機能が提供されていた.

 一方,富士通は小型汎用機としての特徴を持つFACOM 230-10やその後継機であるFACOM 230-15でオフコン領域をカバーし,汎用機としても使える基本ソフトウェアが強化されていった.そして,1970年4月に発表されたFACOM 230-15に同社としては初めて小型機に名前の付いた本格的なOS“SPIRAL”を搭載した.SPIRALは小型機としては先進的なページング機能を提供した.

2. FACOM Vシリーズ,Bm,Sytem80の時代(1970年代中葉〜1980年代中葉)

 富士通,ユーザック電子工業,内田洋行がグループとして活動を始めたのは,1974年8月に発表されたFACOM V0を始めとするFACOM Vシリーズの開発からであった.このFACOM Vシリーズのために開発されたのがUNIOSである.UNIOSとはUnique & UniversalなOSという意味を込めた命名であり,3社のグループの意気込みが感じられる.UNIOSはカバーレンジが広いため,規模および用途に応じて,UNIOS/F1, F2, F4という3つのタイプが用意された.このように,まだ統合途上であったが,共通のコンセプトに沿って,整合性を追求した.その求心力になったのが,次の4D思想である.なお,本当の意味で統合が完成するのは,さらに次のFACOM KシリーズのOS“CSP(CSP/FX)”を待たねばならなかった.

  • (1)DC(Data Communication): UNIOSを介した自在なネットワークシステムを構築
  • (2)DB(Data Base): 情報の一元管理のための使いやすいデータベース機能を装備
  • (3)DE(Data Entry): 業務現場での容易なデータ作成,入力できる機能を装備
  • (4)DU (Data Utility): コンピュータ利用を容易にする開発機能やツールを装備

 一方で同グループは,FACOM Vシリーズではカバーできないビリングマシン的な用途を含む超小型領域をカバーするため,FACOM Vシリーズと並行して,FACOM Bm(1977年12月発表.UASC 820と同一機),続いて FACOM System80シリーズ(1979年4月発表)の開発を進めた.これらのオフコンはDDPS (Direct Data Processing System) と呼ばれる,現場指向のデータ処理ニーズに応える機能を提供した.これは,エンドユーザがディスプレイ端末を用いて対話型の処理を行う,1970年代後半からの大きな流れに繋がる機能であった.FACOM Bm用にはBMOSFACOM System80シリーズ用にはCPS80と呼ばれるOSが提供された.これらのOSは,現場指向のDDPSのニーズに沿って,次の用途に応える機能を提供した.

  • ビリングコンピュータ
  • ブランチコンピュータ
  • ターミナルコンピュータ

たとえば,簡易言語“BOL-1”,パターン化された簡易ソフトウェア“SIMPL”やCPS80で提供されたマルチワークステーション機能などは,DDPSのニーズに対応する機能であった.

3. FACOM Kシリーズおよび以降の時代(1980年代中葉以降)

 前述の背景から,UNIOSは大型指向を強め,BMOSCPS80は小型かつ現場指向を強めて行き,改めて両者の統合が必要になっていた.それに応えるべく登場したのが1984年5月に発表されたFACOM Kシリーズであり,CSPと呼ばれるKシリーズ用のOSであった.当初,CSPには,KシリーズOSとしての一貫性を保ちつつ,先行機種に対する互換性と用途特性を配慮してCSP/F1, F3, F5の3種があった.後にCSP/ F3CSP/ F5CSP/FXとして統合され,FACOM Kシリーズの後継機(FUJITSU K6000シリーズGRANPOWER6000シリーズ)のOSであるASPへと受け継がれていった.

 FACOM Kシリーズの最も特徴的な機種であるFACOM K-10/10Rに搭載されたCSP/F1は,現場指向,分散処理,拡張性を支え,UNIXワークステーションやパソコン(PC)と共存できるよう,オープン性を高めていったが,最終的にはパソコンにその役割を譲ることになった.