【富士通】 OSIV/F4 MSP

OSIV/F4 MSP (Multidimensional System Products)は富士通の超大型汎用オペレーティングシステム(以下OS)であり,1982年6月に発表された.本OSは,既存の超大型汎用OS OSIV/F4をさらに発展させ,大型情報システムに求められる処理能力と信頼性の向上,利用者数の拡大,およびOA (Office Automation)をはじめとする新分野への展開といった情報処理の拡大と高度化に応えるOSであった.
以下に,OSIV/F4 MSPの新機能および機能強化について述べる.

1. OSIV/F4 MSPの新機能

以下に,OSIV/F4 MSPで新たに提供された機能について述べる.

(1) 業界水準を超えた2ギガバイト仮想記憶空間のサポート
31ビットアドレス方式を有する新アーキテクチャにより,仮想記憶空間は従来の16メガバイトから2ギガバイトへ飛躍的に拡張された.しかも,世界で初めて高級言語FORTRAN77,オンラインデータベースAIMで2ギガバイト仮想記憶空間をサポートすることにより,巨大技術計算や大規模オンラインシステム分野で余すところなくその効果を発揮させた.
後に,COBOLおよびアセンブラ言語でも2ギガバイトの仮想記憶空間がサポートされた(1984年11月発表).
(2) 日本語情報システムJEFの世界を広げた多様なメディアのサポート
JEFの機能強化として,日本語とグラフを融合したビジネス・グラフィクス機能のサポートによって情報の判断が正確になり,オフィスの生産性の向上や迅速な意思決定が可能になった.また,JEFファクシミリサポートにより身近にあるファクシミリへの日本語出力が可能となった.
(3) 大型システムとしては世界で初めてのリレーショナル・データ・ベース(AIM/RDB)を提供
テーブル形式の分かりやすいデータ構造になっているリレーショナルデータベースの提供により,エンドユーザ自身が容易にデータベースの開発と運用をできるようになった.これにより,従来から提供しているネットワークデータベースと共存して業務に応じてデータベースの使い分けができるなど,多様化する業務に対応した新しい情報処理が可能となった.

2. OSIV/F4 MSPの機能強化

OSIV/F4 MSPのE10が1983年3月,2ギガバイトの仮想記憶空間をサポートしたE20が1984年1月から提供が開始された.その後,表に示す機能強化が発表された.
OSIV/F4 MSPは,1989年6月に発表されたOSIV/MSP (略称MSP-EX)に引き継がれた.

OSIV/F4 MSPの強化機能の中で,1984年11月に発表されたAIM V12のホットスタンバイシステム構築機能は,金融機関の第3次オンラインシステムなど,高い処理能力と高い信頼性を必要とするシステム構築の基盤技術となった.
AIM V12では,高い処理能力の実現のため複数のホストコンピュータで1つのファイルを共用するロードシェア(負荷分散)方式を可能とするAIM/SRCF (AIM/Shared Resource Control Facility)を提供した.従来,共用ファイルの排他制御は,ハードウェアの磁気ディスク装置のボリューム単位のリザーブ/リリース機能により行ってきたが,AIM/SRCFでは,システム間通信装置FSI (Fujtsu Subsystem Interface)と多数決論理方式を採用してシステム間通信のオーバーヘッドを削減して,データベースページ単位の排他制御をソフトウェアにより実現した.これにより,複数システムによるデータベースへの同時アクセスが可能となり,業務を複数システムに分散することにより,高いトランザクション処理能力を実現した.
また,AIM/SRCFは,システムに異常が発生した時に,1分程度で待機系システムに業務を引き継げるようにするホットスタンバイ機能を提供した.AIM/SRCFでは,事前に待機系システムでAIMの開設から応用プログラムの開設まで一連の処理を行い待機状態にしておいて,現用システムで異常が発生した場合に,現用システムがアクセスしていたデータベースのリカバリを行い,待機していた応用プログラムの現用化,オンライン系資源との再結合を行うことにより,現用システムとして業務を継続できるようにした.
表 OSIV/F4 MSPの主な機能強化
発表時期 主な特長 Edition 提供時期
1982年6月
・OSIV/F4 MSP発表
-2ギガバイトの仮想記憶空間のサポート(E20)
-多様なメディアサポート (E10)
-リレーショナルデータベースAIM/RDB (E10)
-ディスクキャッシュのサポート (E10)
E10
E20
E10:1983年3月
E20:1984年1月
1984年11月
・OSIV/F4 MSP強化
-オンラインデータベースAIMの性能強化
1システム当たり35〜40万件以上/時間のトランザクション処理を可能とする高処理能力を実現
-ホットスタンバイシステムの構築
高速システム間結合装置FSIを利用したデータベース共用システムAIM/SRCFや通信制御処理装置の自動切換えを行うVTAM-G/DCRFを提供.監視装置との連携により障害発生時に待機系システムに切り替え可能なホットスタンバイシステムを構築
-データベースとファイルの二重化を図るDVCF(二重化ボリューム制御)のシステム間共用機能を提供
-従来のTSSの性能と機能性を大幅に向上させた新タイムシェアリングシステムTSS/Eを提供
-高級言語COBOLおよびアセンブラ言語での2ギガバイト仮想記憶空間の利用
E20 1985年3月〜1986年10月
1985年11月
・OSIV/F4 MSP強化
-汎用システムで初めてC言語をサポート
-新米国標準規格(ANS)に準拠したCOBOL85の提供
E20 1986年2月
-
・AIM V12の機能強化(OSIV/F4 MSP,OSIV/X8 FSP,OSIV/ESPIII共通)
-表示ファイルのサポート(TSS/AIFとAIMの画面編集処理の統合,FACOM KシリーズおよびFACOM Gシリーズとの共通化)
-簡易オンラインおよびオンライン基幹業務のプロトタイピングを実現する AP/EF(*1),AP/DF(*2)
-帳票の統合配信サポート APS(*3),
-表示ファイル機能を支える高級言語 COBOL85
・ホストとワークステーションの連携機能 LINKSERV -DSM(*4),DRMS(*5),CJMS(*6),DTS(*7)
E20 1987年6月〜1988年6月
*1 AP/EF:Application Program Environment/Execution Facility
*2 AP/DF:Application Program Environment/Development Facility
*3 APS:Advanced Printing Subsystem
*4 DSM:Distributed System Mnager
*5 DRMS:Distributed Resource Management Support
*6 CJMS:Computer Network Job Management System
*7 DTS:Data Transfer Service

 
FACOM OSIV/F4 MSP 解説書 E10系 (表紙)FACOM OSIV/F4 MSP 解説書 E10系 (内容一部)