OSIV/MSPは富士通の超大型汎用オペレーティングシステム(以下OS)であり,OSIV/F4 MSPの後継OSとして1989年6月に発表された.OSIV/MSPは通称MSP-EXとも呼ばれ,既存のOSIV/F4 MSPをさらに発展させ,新しいアーキテクチャを活用して処理能力と信頼性を向上させ,情報処理の拡大と高度化に応えるOSとして開発された.
1990年9月に,超大型汎用コンピュータM-1800モデルグループの発表と同時に,24時間365日の連続運転を実現した新通信制御プロセッサSURE SYSTEM 2000のサポート,仮想記憶空間の16テラバイトへの拡張,マルチプロセッサ数の拡大,新しいバッチ処理方式により高速処理を実現したエクセルバッチなど,MSP-EXの機能強化が発表された.
以下に,Mシリーズ超大型汎用OSの機能,OSIV/MSPの新機能について述べる.
1.Mシリーズ超大型汎用OSの機能
Mシリーズ用超大型汎用OSは,OSIV/F4からOSIV/F4 MSPを経てOSIV/MSPへと発展してきた.表に各OSの機能を示す.
Mシリーズ用超大型汎用OSは,OSIV/F4からOSIV/F4 MSPを経てOSIV/MSPへと発展してきた.表に各OSの機能を示す.
OSIV/F4 | OSIV/F4 MSP |
OSIV/MSP (MSP-EX) |
||
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発表時期 | 1974年11月 | 1982年6月 | 1989年6月 | |
提供時期 | 1975年10月(バッチ)から順次 | 1984年1月 | 1990年7月から順次 | |
ハードウェアサポート | マルチCPU数 | 4(当初は2) | 4 | 8 |
仮想記憶空間の大きさ | 16メガバイト | 2ギガバイト | 16テラバイト | |
実記憶装置容量 | 16メガバイト | 256メガバイト | 2ギガバイト | |
システム記憶装置 | − | − | ○ | |
拡張チャネル機構 | − | − | ○ | |
システム機能 | 信頼性機能 |
・LCMPによるホットスタンバイ
|
・二重化ボリューム制御によりCPUから磁気ディスク装置上のデータまで完全多重化
・AIM/SRCFによるホットスタンバイ
|
・SCMPによる秒単位のシステム切り替え
・SURE SYSTEM 2000によるネットワーク処理の連続運転
|
リレーショナルデータベース | - | AIM/RDB | RDBII | |
その他 | ・エクセルバッチ |
2. OSIV/MSPの新機能
OSIV/MSPでは,Mシリーズの新しいアーキテクチャ EXA (EXtended system Architecture)を活用して,制御プログラムの機能を拡張した.以下にOSIV/MSPの新機能について述べる.
OSIV/MSPでは,Mシリーズの新しいアーキテクチャ EXA (EXtended system Architecture)を活用して,制御プログラムの機能を拡張した.以下にOSIV/MSPの新機能について述べる.
(1) システム記憶 (SSU:System Storage Unit)
システム記憶は,主記憶に近い性能と磁気ディスク装置並みの運用性を持った記憶装置で,M-770モデルグループ,M-780モデルグループ,M-1800モデルグループやVP2000で新規に開発された.アクセス頻度の高いデータやシステム間共用データ,あるいは主記憶量を超える大量データをシステム記憶に格納することによりデータ処理能力を大幅に向上させることができた.
システム記憶は,主記憶に近い性能と磁気ディスク装置並みの運用性を持った記憶装置で,M-770モデルグループ,M-780モデルグループ,M-1800モデルグループやVP2000で新規に開発された.アクセス頻度の高いデータやシステム間共用データ,あるいは主記憶量を超える大量データをシステム記憶に格納することによりデータ処理能力を大幅に向上させることができた.
(2) SCMP (System storage Coupled Multi-Processor system)
SCMPは,システム記憶を介して複数のシステムを結合したシステム形態である.システム記憶の高速性とシステム間通信機能を使用して,システム間排他制御や相互監視の高速化とオーバーヘッドの削減が可能となった.これにより従来のLCMP (Loosely Coupled Multi-Processor)に比べ高い処理能力と信頼性を持つシステムを構築できた.
SCMPシステムでは,AIM V20の機能強化により,秒単位の業務切り替えを可能とする高速ホットスタンバイや,時間あたり100万件を超えるトランザクション処理を実現した.
SCMPは,システム記憶を介して複数のシステムを結合したシステム形態である.システム記憶の高速性とシステム間通信機能を使用して,システム間排他制御や相互監視の高速化とオーバーヘッドの削減が可能となった.これにより従来のLCMP (Loosely Coupled Multi-Processor)に比べ高い処理能力と信頼性を持つシステムを構築できた.
SCMPシステムでは,AIM V20の機能強化により,秒単位の業務切り替えを可能とする高速ホットスタンバイや,時間あたり100万件を超えるトランザクション処理を実現した.
(3) 新しい処理方式を採用して高速処理を実現したエクセルバッチ
従来,バッチ処理では,1つの業務を複数の処理単位(ジョブ,またはジョブステップ)に分割し,処理単位で磁気ディスク装置上の中間ファイルを用いてデータを引き継いでいた.この方式では,1)処理単位を逐次処理をせざるを得ない,2)引継ぎデータの入出力時間が大きい,という理由から,経過時間が大きくなっていた.
エクセルバッチでは,各処理単位を独立したバッチジョブとして動作させることにより処理単位の並行実行を可能とするとともに,磁気ディスク装置上のファイル単位の引継ぎに代わりシステム記憶を経由したブロック単位のデータ引継ぎを実現して,バッチジョブの経過時間を大幅に短縮した.
従来,バッチ処理では,1つの業務を複数の処理単位(ジョブ,またはジョブステップ)に分割し,処理単位で磁気ディスク装置上の中間ファイルを用いてデータを引き継いでいた.この方式では,1)処理単位を逐次処理をせざるを得ない,2)引継ぎデータの入出力時間が大きい,という理由から,経過時間が大きくなっていた.
エクセルバッチでは,各処理単位を独立したバッチジョブとして動作させることにより処理単位の並行実行を可能とするとともに,磁気ディスク装置上のファイル単位の引継ぎに代わりシステム記憶を経由したブロック単位のデータ引継ぎを実現して,バッチジョブの経過時間を大幅に短縮した.
(4) 新通信制御プロセッサSURE SYSTEM 2000をサポートするVTAM-G V30
1989年6月に,OSI(Open Systems Interconnection)に準拠し,通信相手のコンピュータや端末数を実質無限大(10兆個)へ拡張したVTAM-G V30を発表し,1990年4月から提供を開始した.
1990年9月に,VTAM-G V30の機能強化による新しい通信制御プロセッサSURE SYSTEM 2000 (以下SS2000と略す)のサポートを発表した.
このVTAM-G V30のSS2000連携機能では,ホストで行っていた通信処理をSS2000にオフロードした.その結果,Mシリーズシステムとして従来実現できていなかった,以下のことが可能となった.
1989年6月に,OSI(Open Systems Interconnection)に準拠し,通信相手のコンピュータや端末数を実質無限大(10兆個)へ拡張したVTAM-G V30を発表し,1990年4月から提供を開始した.
1990年9月に,VTAM-G V30の機能強化による新しい通信制御プロセッサSURE SYSTEM 2000 (以下SS2000と略す)のサポートを発表した.
このVTAM-G V30のSS2000連携機能では,ホストで行っていた通信処理をSS2000にオフロードした.その結果,Mシリーズシステムとして従来実現できていなかった,以下のことが可能となった.
1)ホットスタンバイと連携したシステムの連続運転
待機系への切り換え時,端末からのデータをSS2000が一時保持するので,業務を中断することなく運用できるようになった.
待機系への切り換え時,端末からのデータをSS2000が一時保持するので,業務を中断することなく運用できるようになった.
2)ネットワークの活性保守・増設
従来,ネットワークの機器の変更時のネットワークの環境定義の変更は,システムを止めて行う必要があったが,SS2000のネットワーク定義を変更するば(SS2000を止めないで変更可能),自動的にホストコンピュータへ反映された.これにより,ホストコンピュータを運転しながら,ネットワークの変更を行えるようになった.
従来,ネットワークの機器の変更時のネットワークの環境定義の変更は,システムを止めて行う必要があったが,SS2000のネットワーク定義を変更するば(SS2000を止めないで変更可能),自動的にホストコンピュータへ反映された.これにより,ホストコンピュータを運転しながら,ネットワークの変更を行えるようになった.
(5) 拡張チャネル機構(ECF:Extended Channel Facility)
ECFは,OSが処理していた入出力処理をチャネル装置が行うことにより,入出力処理のためのCPUオーバーヘッドの削減とチャネルの効率的使用による入出力処理性能の向上を実現した.
ECFは,OSが処理していた入出力処理をチャネル装置が行うことにより,入出力処理のためのCPUオーバーヘッドの削減とチャネルの効率的使用による入出力処理性能の向上を実現した.
(6) 最大CPU数の拡張とマルチプロセッサシステム性能を改善
既存のOSIV/F4 MSPでは最大4台までのマルチプロセッサ制御をサポートしていたが,OSIV/MSPでは,M-1800モデルグループの提供に合わせ,最大8CPUまでのマルチプロセッサをサポートした.また,仮想記憶や実記憶の管理のための排他制御処理の改善,システム資源の管理方式の改善によりマルチプロセッサシステムの性能を向上させた.
既存のOSIV/F4 MSPでは最大4台までのマルチプロセッサ制御をサポートしていたが,OSIV/MSPでは,M-1800モデルグループの提供に合わせ,最大8CPUまでのマルチプロセッサをサポートした.また,仮想記憶や実記憶の管理のための排他制御処理の改善,システム資源の管理方式の改善によりマルチプロセッサシステムの性能を向上させた.
(7) RDBII
OSIV/F4 MSPでは,リレーショナルデータベースとしてAIM/RDBを提供していたが,新たに飛躍的な性能向上と国際標準の取り込みを行ったRDBIIが発表され,1990年11月から提供された.
RDBIIでは,国際標準(ISO SQL9075)に準拠したデータベース言語SQLを採用した.また,専用アクセス法の採用によるデータベースアクセス時間の短縮化や,SQLに対する高度な最適化処理を導入して高いトランザクション処理性能を実現した.
OSIV/F4 MSPでは,リレーショナルデータベースとしてAIM/RDBを提供していたが,新たに飛躍的な性能向上と国際標準の取り込みを行ったRDBIIが発表され,1990年11月から提供された.
RDBIIでは,国際標準(ISO SQL9075)に準拠したデータベース言語SQLを採用した.また,専用アクセス法の採用によるデータベースアクセス時間の短縮化や,SQLに対する高度な最適化処理を導入して高いトランザクション処理性能を実現した.
(8) 複数AIM環境を実現したAIM V20
AIM V20では,(2)項で述べたSCMPシステムに対応したオンライントランザクションシステム機能(複数クラスタ間データベース共用および高速ホットスタンバイ)に加え,オンライン本番環境を業務単位に分割し業務ごとの独立運用と業務追加を可能にした複数AIM環境を実現した.
AIM V20では,(2)項で述べたSCMPシステムに対応したオンライントランザクションシステム機能(複数クラスタ間データベース共用および高速ホットスタンバイ)に加え,オンライン本番環境を業務単位に分割し業務ごとの独立運用と業務追加を可能にした複数AIM環境を実現した.