東芝オペレーティング・システムの歴史

東芝は,1956年に東大とのTAC開発の共同プロジェクトから撤退した後も.コンピュータの研究開発を継続したが,1950年代に開発されたTAC-II,TAC-III(いずれも商用化はされなかった)では,OSやユーティリティのような標準的なソフトウェアは存在しておらず,ユーザが業務に応じてその都度応用技術として開発する必要があった.1960年代になると,ようやく,アセンブラ,ローダ,コンパイラが開発され,ハードウェアと一緒に提供されるようになった(1961年TOSBAC-3100 アセンブラ,1962年TOSBAC-4200 アセンブラ/ローダ,1964年TOSBAC-4300 アセンブラ/COBOL/FORTRAN/RPG).

東芝のコンピュータでOSが提供され始めたのは,1964年のTOSBAC-3400が最初である.東芝のOS開発は,大学との共同研究などを活用することはあったが,自力による開発に始まり,その後,米国からの技術導入(ライセンス導入)が行われ,1974年に発表されたACOSシリーズ77上位機用のACOS-6では,再度自力開発に戻った.

  1. 自力開発のOS
    東芝が自力開発した最初のOSは,1964年に完成したTOSBAC-3400用OS TOPS-1である.TOPS-1は, 1963年に京大と共同開発したFORTRANシステムを構成するFORTRANモニタをベースにして開発された.TOPS-3400用には,その後,TOPS-2,TOPS-4,TOPS-11,TOPS-14,TMSなどの多くのOSが開発されたが,これらのOSは, TOPSシリーズを構成する命名になっているが,それぞれが,TOSBAC-3400のHWの進化を最大限に生かすことを念頭に開発され,必ずしも互換性が保証されたものではなかった.
    TOSBAC-3400に続く自力開発OSは,1965年に発表されたTOSBAC-5100用のOS COS/MTである.これは,TOSBAC-5100モデル10用のOSであり,その後,TOSBAC-5100シリーズに,モデル20,30が提供されるたびに,対応するOSとしてCOS/DS,COS/30が開発された.COS/DSとCOS/30では,データベース IDSが搭載された.IDSでは,相互に関係するレコードの間にリンクが張られネットワーク構造となっていたために,ネットワーク型データベースと呼ばれた.
    続く自力開発OSは,東芝にとって最後のメインフレーム用OSとなるACOS-6である.ACOS-6は,「2.ライセンス導入OS」で述べる,米国HIS(Honeywell Information Systems)社から技術導入したTOSBAC-5600用OS GCOS-3を国内マーケットに対応させるための改造/強化によって培われた技術力をベースにして開発された.ACOS-6では,仮想記憶システム,ドメイン保護機能による堅牢なメモリーアクセス制御,共有ライブラリ機能などの,多くの新機能が盛り込まれた.しかしながら,東芝は,1978年に,メインフレームの事業から撤退し,事業をNECとの合弁会社 日電東芝情報システム株式会社(当時.現在は,NECトータルインテグレーションサービス株式会社)に譲渡し,ACOS-6の開発から手を引いてしまった.その後,東芝は,メインフレーム用OS開発行っていない.
  2. ライセンス導入OS
    東芝は,OSの自力開発の一方で,1964年に米国General Electric(GE社)社との間にコンピュータに関する技術提携契約を結び,同社のコンピュータの日本国内ユーザ向けの改良,強化を行って商品化した.主なライセンス導入コンピュータは.GE-400シリーズ,GE-600シリーズであり,それぞれ,TOSBAC-5400,TOSBAC-5600として商品化された.
    TOSBAC-5400では,最初に磁気テープベースのユニプログラミングシステムであるMTPSが導入された.その後,GE社からは,固定磁気ディスク装置ベースの本格的マルチプログラミングシステムDAPS,入出力と本体処理の並列化によるマルチプログラミングを実現した可換型磁気ディスクパックベースのDPS,DPSをベースにしたタイムシェアリングシステムTSPSなどが相次いで導入された.このGE社との技術提携は,ライセンスによる単純な技術導入などではなかった.たとえば,GE社からリリースされたDAPSでは,システム立ち上げの遅さや,固定磁気ディスク装置の信頼性の悪さが明らかとなり,東芝は,自力でDAPSを可換型磁気ディスクパック装置ベースに改造した.さらに,1970年には,東芝が独自開発したTOSBAC-5400用ALGOLコンパイラをGE社への提供することになった.
    TOSBAC-5600は,GE社GE-600シリーズの国産化を目指した.しかし,1970年5月にGE社がメインフレームコンピュータ部門をHIS(Honeywell Information Systems)社に売却し,GE-600シリーズはH-6000シリーズと改称され,技術提携の相手は,GE社からHIS社へと変わった.東芝がそれまでに経験したOSは,処理形態やハードウェアモデル(構成)ごとに異なるOSであったが,H-6000シリーズ用OS GCOS-3は,ローカルバッチ,リモートバッチ,タイムシェアリング,リモートアクセス,トランザクション処理を単一OSでサポートするという,画期的なコンセプトに基づくものであった.