【日本電気】 ACOS-6

日本電気と東芝は,1974年11月に,多次元処理を実現した大型汎用機用オペレーティングシステムACOS-6を発表し,1974年12月から出荷開始した。1978年には,本格的な仮想記憶システムを採用したバージョンの出荷を開始した.
ACOS-6は,その基礎となるACOSシリーズ77のソフトウェア資産の継承性を保持しつつ,マルチユーザ対応を強化する多次元処理および仮想記憶システムの採用により,柔軟性,拡張性,信頼性を強化し,ACOSシリーズの大型機であるシステム600,システム600S,システム700,システム800,システム900システム1000,および,サブモデルのシステム650,システム850に搭載されていった.
ここで採用された多次元処理および仮想記憶システムは,その後のACOS-6後継世代へも基本技術として継承されている.

採用されたアーキテクチャ,および主な機能についての特長は以下の通りである.

1.アーキテクチャの特長
(1)多重プログラミング
システムに与える1つの仕事の単位であるジョブは,順次実行されるプログラムとその関連データに対応づけたアクティビティと呼ぶ処理単位から構成される.実行段階に入ると,システムはすべてのアクティビティをその種別に依らず,「順次実行される一連の命令群と関連データを持ち,CPUやI/O等のリソースを割り当てる対象となる」プロセスと呼ぶ処理単位に時分割することで,多重プログラミングを可能とした.
(2)仮想記憶システム
有限な大きさを持つ主記憶装置とは独立した仮想的な記憶装置(仮想空間と呼ぶ)を用意した.プログラムおよびデータは仮想空間に格納され,プログラマから主記憶装置の制限を取り除くことと複数の利用者で主記憶装置を効率的に使用することを可能にした.ACOS-6の仮想記憶システムに関わる主なアーキテクチャを4点紹介する.
(a)ページング
仮想空間の物理的な区分け手法として,ページングが採用された.ACOS-6では,仮想空間はページと呼ぶ4キロバイト単位に分割されて主記憶装置上に写像される.ページングの手法としてデマンドページング方式が採用された.プログラムの実行時に必要な部分のみが,ページ不在割り込みを契機に外部記憶装置から主記憶装置にページ単位でロードされることとなる.
(b)セグメンテーション
また,仮想空間の論理的な区分け手法として,セグメンテーションが採用された.ACOS-6では,物理的なページと論理的なセグメントとを独立したものとし,バイト単位からギガバイト単位までの任意のサイズのセグメントごとに,境界チェックや書き込み可否等の属性チェックを持たせた.
(c)ドメイン
プログラムがアクセスできる命令およびデータ範囲を,そのセグメント集合として表現した概念をドメインと呼ぶ.プログラムごとにドメインを切り替えることでアクセス保護を実現し,また,ドメイン間でセグメント追加やセグメント共有をすることによってプログラム間の引数データ渡しやデータ共有を可能にした.



(d)IOMによる動的アドレス変換機構(DAT)
本体から独立した装置で,入出力装置を管理するためのIOMと呼ばれるハードウェアにも,動的アドレス変換機構(DAT)が組み込まれており,論理アドレスによる入出力要求の受付を可能とした.
(3)RモードとVモード
ACOS-6のプログラムには,前記の仮想記憶システムが出現する前に静的再配置方式で動作していたR(Real)モードプログラムと,仮想記憶システムのページング/セグメンテーション機構に適合させたV(Virtual)モードプログラムとが混在できる.
(4)マルチプロセッササポート
ACOS-6では,密結合型と疎結合型の二方式のマルチプロセッサをサポートした.密結合型マルチプロセッサでは最大4台までのプロセッサをサポートした.一方,疎結合型マルチプロセッサでは,大容量ディスクコントローラ内にロックバイト機能を持たせ,最大4台までのコンピュータ間でのファイル共有を行うSMS(Shared Mass Store)システムの構築が可能である.
(5)プロセッサリリーフ機構
密結合型マルチプロセッサ構成におけるプロセッサ(CPU)の障害に対して,障害プロセッサでの仕掛り状態をファームウェアおよびオペレーティングシステムのアシストを介して他のプロセッサに引継ぎ,障害時に稼動中であったジョブに障害中断を意識させることなく継続稼動させるプロセッサリリーフ機構を,システム1000より実装し,高可用システムを実現した.

2.機能の特長
(1)多次元処理
コンピュータシステムのデータ処理として,データの処理量,データを授受する場所,データの処理時間,利用者層,利用目的に応じて,ローカルバッチ処理,リモートバッチ処理,会話型タイムシェアリング処理,会話型リモートバッチ処理,トランザクション処理,メッセージ交換といった複数の処理形態を同時に動作させることができる.さらに各々の処理形態は,多くの利用者,利用端末を同時に効率よく処理することができる.


図-2

図-2


(2)データベースとオンライントランザクション機能
CODASYL標準に準拠したネットワーク型データベース管理システムADBS(Advanced Data Base System)をサポートした.
(3)ネットワーク機能とオンライン処理
国際標準,業界標準に基づいた通信手順をサポートする通信管理プログラムとして,ATAM(Advanced Telecommunication Access Method),NPS-AF(Network Processing Supervisor-Advanced Function)を提供した.
タイムシェアリングシステムをサポートするTSS-AF(Time Sharing System - Advanced Function)により,複数の利用者からの会話型のメインフレームコンピュータ活用とともにメインフレームとリンクしたOA化への適応を可能とした.
オンライントランザクション処理をサポートするTDS-AF(Transaction Driven System - Advanced Function)により,高性能/高信頼のオンラインリアルタイム処理を可能とした.
(4)プログラミング言語
主に,事務処理系COBOL74,技術演算系FORTRAN77,汎用系PL/I,システム記述系HPLなどの言語処理を可能とした.
(5)共有ランユニットライブラリ
複数の実行プログラムから参照されるライブラリのコードを共有する機能として,共有ランユニットライブラリが提供された.共有ランユニットライブラリに登録されたプログラムへの参照は,静的リンク時に解決される.ただし,実行時にリンクされているものが変更されている場合には,再リンクをしたあとで実行される.
(6)日本語対応
漢字かな混じりの日本語データの入力処理,日本語データの出力処理など,従来の英数字データとほとんど同様に日本語情報処理が行えるようにした.また,日本語データを出力するプリンタ機器の普及に対応した.