日本電気オペレーティング・システムの歴史

 日本電気の黎明期のハードウェアにはパラメトロン式計算機(NEAC-1101等)とトランジスタ式計算機(NEAC-2203等)がある.
 これら黎明期装置のソフトウェアではアセンブラやソートなどの標準ルーチンが用意されており,使用者は標準ルーチンを用いて,必要とするソフトウェアを作成していた.
 日本電気のメインフレーム用本格的オペレーティングシステム(OS)は,1964年から提供され,ハードウェアと対応したMODシリーズとACOSシリーズの2つのシリーズからなる.

(注)以下でMODは"モード",ACOSは"エイコス"と読む.

  1. MOD I,MOD IIIMOD IVMODVII
     NEAC-シリーズ2200用OSとして,ワンマシンコンセプトに基づき,MOD IからVIIに至るまでデータファイルとアプリケーションプログラムの互換性および拡張性を有し,1964年から1970年にかけて順次製品化された.
     MOD Iは小型機用で,磁気テープシステム向けとディスクシステム向けを用意した.
     MOD IIIMOD IVMOD VIIは中・大型機用で,複数の独立したプログラムの同時処理,メモリおよび入出力装置のダイナミックな割り当て,COBOLやFORTRANの高水準言語,タイムシェアリングシステム(NEAC-TSS),CRJE(Conversational Remote Job Entry)などの特長を備え,ユーザの必要とするアプリケーション業務および機器構成に応じた幅広いサービスを提供した.
  2. ACOS-2/ACOS-4/ACOS-6
     ACOSシリーズメインフレーム用に3種類のOS ACOS-6ACOS-4ACOS-2をほとんど同時期に製品化(発表はいずれも1974年)し,市場要求に応えて機能強化を継続した.1990年までの間では,例えばACOS-6においては,上方向互換性を有するACOS-6/MVXACOS-6/MVX IIという後継OSを製品化した(ACOS-6は,これらの総称名としても使用される).
     大型機用のACOS-6は,東芝との共同開発により,先進的多次元処理機能(ローカルバッチ,リモートバッチ,トランザクション処理,TSS等)やマルチプロセッシングをいち早く実現し,大型オンラインシステムの適用を容易にした.
     ACOS-4は,中型機用OSとしてスタートし,その後の強化を経て7つのコンセプト(高性能,高信頼性,大規模化,高運用性,高生産性,業界・国際標準,リレーショナルデータベース)を実現し,大型機領域まで幅広い拡張性を有するOSへと発展した.
     小型機用のACOS-2は,実用的で使いやすいデータベース,充実したエンドユーザファシリティ,PWSS(対話処理システムPersonal Work Station System),自動運転機能などの中・大型機並みの機能・性能を備え,低コストでのオンラインシステム構築の容易さで多くのシステムで利用された.
     各OSは,仮想記憶制御,マルチプロセッサ制御,仮想計算機制御などのハードウェア特性に応じたOS基本機能に加え,利用者に対して以下のような共通機能を提供した.
    (1)ネットワーク機能
     コンピュータネットワークが,コンピュータと端末との直接接続形態から分散処理形態へ変化するのに伴い,分散処理指向のネットワーク体系DINA(Distributed Information-processing Network Architecture)として1976年に発表,実現した.1986年には国際水準であるOSI(Open Systems Interconnection)採用の通信基盤DINA-XE(DINA for eXtended Environment)に発展した.
    (2)データベース(DB)
     ネットワーク型DBのADBS(Advanced Data Base System)を提供し,基幹DBとしての実績を積みあげた.また,リレーショナル型DB技術の進展に対応して,1980年代初頭にはRIQS(Relational Information Query System)を製品化した.
    (3)トランザクション処理システム
     ACOS-2/ACOS-4向けにVIS(Versatile Information System),ACOS-6向けにTDS(Transaction Driven System)を製品化した.大規模なオンラインシステムの開発においても,複雑なリカバリ機能やDB制御,通信制御を意識することなく,事務処理言語として一般的に使用されていたCOBOL言語によるオンライン業務プログラムの開発を可能とした.
    (4)プログラム言語と開発環境
     事務処理向け言語COBOL,科学技術計算向け言語FORTRAN,システム記述用言語HPL(Higher level Programming Language)等に加え,第4世代言語(業務システムの生産性向上を目指す)としてIDL II(Integrated Data oriented Language II)を1987年から製品化した.
     CASE(Computer Aided Software Engineering)技術領域では,1983年に対話形式でプログラムの設計と自動合成,資産の一元管理を行うソフトウェア開発支援システムSEA/I(Software Engineering Architecture/One)を提供した.1990年にはソフトウェアの設計はワークステーションで,自動合成と資産の管理はホストコンピュータで行うというクライアント/サーバ形態のソフトウェア開発支援システムSOFPIA(Software Productivity Improvement Aid),IDLTOOLを他社に先がけて実現した.