【日立】 日立のDB/DCシステム

 コンピュータの利用規模が拡大する1970年頃からユーザデータを独立して扱うデータベースシステムに世の中の関心が集まるようになった.データベースシステムとは,複数個の独立な業務プログラム(在庫管理プログラム,販売管理プログラムなど)が共通の情報群(データバンク)にアクセスすることにより,処理効率を向上するトータルシステムである.
 データベース誕生以前は各業務プログラムごとに固有のデータファイルを持ち,データは各業務プログラム間でファイルを介して受け渡され,受け渡し時点でソートマージなどの操作が入っていた.このため,冗長なデータが重複して存在することになり,ファイル更新による内容の不一致,ファイル維持コストの無駄等が生じていた.データベースシステムの登場でこうした問題が解決された.
 一方,1970年代にはオンラインシステムでのコンピュータ利用も急速に拡大していった.オンラインでデータベースを使うための通信機能を備えたデータベースシステムがDB/DCシステム(データベース/データコミュニケーションシステム)である.

(1)PDM
 PDMはプラクティカルデータマネージャの略で,簡単で実用性が高く,COBOLやアセンブリ言語を親言語とするホスト言語型のデータベースマネージメントシステムである.PDMは1974年に出荷した中規模DBシステム向きのネットワーク構造データベースでNDOSEDOS,EDOS-MSOの下で稼働した.1976年にはVOS1VOS2VOS3でもPDMをサポートした.
 図-1にPDMシステムの概念図を示す.データの定義をユーザプログラムから分離し,データの独立性を守るためにPDMではデータ定義言語(DBDL)とデータ操作言語(DML)をサポートしている.図-1に示すように,DBDL定義ステートメントはDBGENプログラムによりアセンブリソースに変換され,それからアセンブラがデータベースモジュール(DBM)を作成する.ユーザプログラムからは,CALLを介して,データ操作言語(DML)でのPDMに対するデータベース操作指示が出される.

図-1「PDMシステムの概念図」

図-1「PDMシステムの概念図」

(2)ADM
 ADMはアダプタブルデータマネージャの略で,データコミュニケーション機能を備えた大規模システム向きDB/DCシステムである.ADMは1974年にEDOS-MSO版を出荷し,1976年にはVOS2/VOS3版を出荷した.
 ADMは以下のような特長を備えた階層構造データベースで,ユーザのシステム統合化に強力な手段を提供する.
  • 強力なファイル管理機能と容易で柔軟性の高いコミュニケーション機能
    ユーザプログラムと簡易なインタフェースを持ち,マルチタスク機能,メッセージスケジューリング機能,機密保護機能等を有している.
  • OSの拡張システムであること
    OSとユーザのインタフェース部分をユーザのプログラムから切り離し,集中管理することで,処理効率の向上とシステムリソースの有効活用を図っている.
  • ユーザシステムの拡張性と運用環境の最適化に対する考慮が払われていること

 図-2にADMのシステム構成を示す.
  • システムコントロール
    システムあるいはユーザプログラムの開始と停止およびADMシステム実行中のすべての処理をコントロールするADMの中核部分.
  • システムサポート
    メモリ管理,ロギング等の共通サービスモジュール群
  • コミュニケーションプロセッサ
    OSとのインタフェースを含む通信回線の処理を行う.
  • データアクセス
    ユーザプログラムからの要求に対するデータベースのアクセスを実行する.
  • 定義ユティリティ
    システム,データベース,ユーザプログラムおよび機密保護定義のためのユーティリティ
  • 維持ユーティリティ
    データベースの再編成や回復,システム運用状況の解析,システムライブラリの更新等のためのユーティリティ

図-2「ADMのシステム構成」

図-2「ADMのシステム構成」

(3)XDM
 1980年代に入るとDBの適用はさらに進み,DB/DCシステムへの要求として,システムの多様化,複合化や大規模化,負荷の増大といった傾向が顕著になってきた.また,DBインタフェースでは国際的な標準化が進み,構造型DBではNDL(Network Database Language),リレーショナルDBではSQL(Structured Query Language)が採用された.このような状況下で,システムの限界が見えつつあった既存のDB/DC製品の後継として,大幅な規模拡大,適用業務拡大を狙った新しいDB/DC製品,XDMを開発した.
 XDMは構造型DB,リレーショナルDBの両方をサポートしているが,構造型DBとしては国際標準NDLに基づき,階層型,ネットワーク型を統合した構造型DBモデルをサポートしたXDM/SDを1986年に出荷した.
 リレーショナルDBとしては,XDMより前に1984年にRDB1を開発し,1989年にXDM/RDを開発した.XDM/RDは国際標準のSQLに基づくリレーショナルDBモデルによって,情報系の非定形業務だけでなく,基幹系の定形業務へも適用可能なDB製品である.内蔵型データベースプロセッサ(IDP)機構によるDB高性能化,広域複合システムへの対応,高性能DBへの対応他の特長を備えている.
 図-3にXDMの構成を示す.

図-3「XDMの構成」

図-3「XDMの構成」

 XDMはデータベース機能とデータ通信機能を統合したデータマネージメントシステムであり,VOS3の下で稼働する.XDMは次のような特長を持つ.


(a)大規模・高性能に対応するDB/DC基本アーキテクチャを採用
  • システム規模の制限打破
    データベース容量を6,400ギガバイトまで拡大,31ビットアドレッシングによりUAP(ユーザアプリケーションプログラム)の2ギガバイト仮想空間での実行,最大1,500本のUAP同時実行など,システム規模の大幅引き上げによるユーザ業務拡大への対応を図った.
  • 高性能への対応
    複数UAPからのデータベース処理を並行して行うコンカレントアクセス方式による多重プロセサ環境でのシステム利用効率,トランザクションのスループットの向上を図った.また,データベースをディスク上からメモリに常駐させることで,I/O回数を削減し,高速アクセスを実現した.
(b)一貫したシステム開発管理環境による高生産性の実現
  • システム運用に必要なDB/DC環境定義情報をディクショナリシステムで一元管理している.これにより,大幅な運用管理工数の削減が可能となった.
  • DB/DC操作言語をCOBOL,PL/Iのホスト言語の中に取り入ることで,UAP作成を容易にした.
  • システム開発支援用プログラムEAGLE2の組込みにより,UAP作成からテストまでを一貫して効率よく行えるようになった.
(c)豊富なデータサービスの実現
 ユーザの多様な業務アプリケーションに対応するため,定形業務向きの構造型データベースと,非定形業務向きのリレーショナルデータベースの両方を提供している.また,これら2種類のデータベースに同一UAPからアクセスできる.