FACOM 603は,真空コラム緩衝機構と画期的なシングルキャプスタン駆動方式を採用した富士通の磁気テープ装置であり,最初の機種のFACOM 603Aが1964年6月に完成した.
同社では,FACOM 601,602などの機種の実際の使用実績から,「(1) テープの完全な保護 (2) 高度の信頼性 (3) 保守の容易なこと」を教訓として得た.これらを満足させる方式を検討した結果,従来のテープ送り機構「キャプスタン,ピンチローラ方式」の代わりに,画期的な「シングルキャプスタン方式」を発明した.
この方式では,直流サーボモータで駆動される一つのキャプスタンでテープを両方向に送るようにした.テープはキャプスタンの表面に約180度巻きつけられ,真空コラムでテープに一定の張力を加えながら,キャプスタンの回転に従い表面摩擦により滑ることなく送られる.したがってテープを送る力が広く分布し張力が均一となるため,テープの動きがなめらかで,スキューおよび損耗を最小限に抑えることができた.また,記録面のテープには読み取り書き込みのヘッドとクリーナー以外接触するものがなく,早巻き戻しの時にはヘッドは,テープ表面から離れるため,ヘッドおよびテープの損耗を防いでいる.このように,高い信頼性を実現するとともに,テープ送り機構が簡単な構造で微妙な調整も不要となり,保守も容易となった.
初期の機種には,テープ速度の異なるFACOM 603A,FACOM 603B,FACOM 603Cの3機種があったが,その後,800RPIに記録密度を高めたFACOM 603D/E,いち早く9トラックに対応したFACOM 603F/G,新しい記録方式により1600RPIに記録密度を高めたFACOM 603J/K/M/Nなど多数の改良機種が開発され,FACOM 603シリーズと呼ばれた.
F603A |
F603B (F603C) |
F603D (F603E) |
F603F (F603G) |
F603J (F603M) |
F603K (F603N) |
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完成時期 | 1964年6月 | 1965年頃 | 1967年頃 | 1968年頃 | 1971年頃 | |
テープ速度 (インチ/秒) |
45 |
75 (120) |
75 (120) |
75 (120) |
75 | 120 |
データ転送速度 |
25/9 k桁/秒 |
41.7/15 (66.7/24) k桁/秒 |
60/41.7 (96/66.7) k桁/秒 |
60 (96) KB/秒 |
120 (120/60) KB/秒 |
192 (192/96) KB/秒 |
記録密度 (RPI) |
556 /200 | 800 /556 /200 (*1) | 800 |
1600 (1600/800) |
1600 (1600/800) |
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記録方式 | NRZI |
PE (PE/NRZI) |
PE (PE/NRZI) |
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ヘッド | 7 | 9 | ||||
テープ駆動方式 | シングルキャプスタン,真空コラム方式 | |||||
巻き戻し時間 | 2.5分 | 2.0(1.5)分 | 2.0 (1. 8)分 | 2.0分 | 1. 8分 | |
クロスコール機構 | なし | あり | ||||
主要接続システム | FACOM 231 | FACOM 241, 230-30, 230-50 | FACOM 230-20 /30 /60 | FACOM 230-25 /35 /45S /55 /60 /75 |
*1:800RPI,556RPI,200RPIのうち2つの組み合わせが,磁気テープ制御装置の設定により可能