【電気試験所】 ETL Mark III トランジスタ式計算機

電気試験所で1956年に試作された2進法トランジスタ式電子計算機.プログラム内蔵式のトランジスタ式電子計算機としては世界で最初と思われる.当時の所長後藤以紀が1952年に完成したリレー式計算機ETL Mark I, 当時開発中の大型実用機Mark IIにつづくものということでMark IIIと命名した.電子部の高橋茂西野博二松崎磯一,近藤薫が中心になり研究・試作した.

論理基本回路はトランジスタ1本によるダイナミック回路を採用し,論理素子には点接触型トランジスタ約130本,ゲルマニウムダイオード約1,800本を使用し,これを300枚の抜き差しできるプラグインパッケージに収容した.主記憶装置は部長の和田弘の発案により,金石舎研究所に協力を依頼して光学ガラスを媒質とする超音波遅延素子を開発し,これを4本使用して128語の記憶装置を実現した.2進直列・1アドレス方式で,命令語,数値語とも1語16ビット.同期方式をとりクロックサイクルは1MHz・4相で,加減算速度は560μs,乗算は768μsの性能を有する.1956年3月に設計が終了し,製作は4月に終了,7月に稼働を開始し,我が国では富士写真フィルムのFUJIC(真空管式)についで2番目に完成した自動電子計算機となった.

現在,ETL Mark IIIに使われた論理回路のプラグインパッケージと記憶装置用の光学ガラスの超音波遅延素子が産総研に保存されている.


 
ETL MarkIII超音波遅延線記憶素子