【富士通】 OSII, OSII/VS

OSII (オー・エス・ツー)は,富士通の大型汎用コンピュータFACOM 230-45SおよびFACOM 230-55用のオペレーティングシステム(以下OS)である.OSIIでは,ハードウェアのページアドレス機構を活用した仮想メモリ管理方式を活かし,ダイナミックリロケーションなしに多重プログラム制御を実現した.
1973年8月にはFACOM 230-38,48,58用に,富士通のOSとして初めて多重仮想記憶制御を実現したOSII/VSが発表された.
以下に,FACOM 230-5,8シリーズ用大型汎用OSの歴史と各OSの特長について述べる.

1. FACOM 230-5,8シリーズ用大型汎用OSの歴史

OSIIの前身は,1968年8月のFACOM 230-25,35,45の発表の際に言及されたFACOM 230-45オペレーティングシステムである.FACOM 230-45オペレーティングシステムには,明確な固有名詞は付けられず,略称としてOS-45または45OSと呼ばれた.1970年夏のIBM 370シリーズの発表を受けて,その対抗機として,FACOM 230-45S,45D(後に55と改称)が1971年2月に発表された.同時に,これらの新機種用に強化されたOS-45が発表された.このOSは1971年11月の大型汎用コンピュータFACOM 230-55の発表時にOSIIと命名された.なお,FACOM 230-55は,1971年2月の時点では予告発表であったFACOM 230-45Dの正式な発表時の名称である.


図 OS-45(後OSIIと改称)の構成

図 OS-45(後OSIIと改称)の構成


OSIIは,オンラインコンピューティング時代の要請に呼応し,あらゆる処理形態と規模に対応できる機能の提供とともに,すぐれた性能/価格比の実現を目指した.そのため,同社の中型汎用コンピュータFACOM 230-25,35用のOSであるBOS,ROSの機能を包含し,先行して開発されたFACOM 230-5060用OS MONITOR III,IVVの経験を活かして開発され,1971年6月に完成した.

1973年8月に,OSIIに対し仮想記憶制御機能やオンラインデータベースなどの大幅な機能強化を図り,FACOM 230-38,48,58用オペレーティングシステムとして発表された OSII/VSが,1974年11月に完成した.このOSII/VSでは,モジュール構造化を一層徹底させて,96キロバイトメモリの最小メモリから使用可能とし,中型機のコストで大型機並みの性能および機能を持ったFACOM 230-38の提供が可能となった.

2. OSIIの特長

OSIIは,以下の特長を有した.

(1) バッチ,リモートバッチ,データベース(RAPID)(*)/データ・コミュニケーション(SOM/COP)(*)処理などあらゆる処理形態に対応可能
さらに,徹底したモジュール構造を採用し,必要機能・規模に応じた構成を組むことができ,非常に優れた性能/価格比を実現した.
*:RAPID;Retrieval And Production for Integrated Data
SOM;Standard Online Module
COP;online COmmon Package
(2) ハードウェアのページアドレス機構を活用した仮想メモリ管理方式を採用し,多重プログラム制御をダイナッミクリロケーションなしに実現
FACOM 230-45,45S,55は,論理アドレスを2キロバイトのページ単位に物理アドレスにマッピングさせるページアドレス機構を有していた.そのため,実行するプログラムの命令およびデータの物理アドレスは連続している必要がなく,新たにプログラムをロードする時には,論理アドレスを物理アドレスに変換するためのページテーブルを書き直せば済んだ.つまり,従来の多重プログラミング制御として行われていたダイナミックリロケーションを必要としなかった.
(3) コンソール機能として,文字ディスプレイ装置の使用による豊富な状態表示機能とマルチコンソール機能により,マルチジョブの運用効率の向上と操作の容易化を図った
当時,OSの多重プログラミングは一般的となっていて,その運用効率,使い勝手,操作性などの向上が課題となっていた.OSIIでは,簡素で強力な操作指令を使用するとともに,操作性を向上させる前述のようなコンソール機能を提供した.
(4) 効率的なマルチプロセッサ制御を実現
FACOM 230-55のマルチプロセッサシステムでは,2つのCPUで同時動作をさせながら特定のCPUに仕事が偏らないように,全体の処理能力をバランス良く向上させるマルチプロセッサ制御を行った.
(5) 手軽にオンライン処理を実現できるSOM(Standard Online Module)を提供
OSIIのオンラインサポートとして,大型のオンラインシステムを対象とするCOP (online COmmon Package)と標準的な端末を使用してオンライン処理を手軽に実現することを目的としたSOM (Standard Online Module)の2つを提供した.SOMは,GET/PUT(RECEIVE/SEND)のアクセスマクロ,端末からのジョブ呼び出し手段(端末コマンド),ロールイン・ロールアウト制御機能を持ち,COBOL言語による記述が可能であり,問合せ業務,データ集配信業務,メッセージ交換業務などに広く適用できた.

3. OSII/VSの特長

OSII/VSは,以下の特長を有した.

(1) OSIIの上方互換を確保しながら,モジュール構造化をさらに進め,最小システムの必要メモリを96キロバイトとした (OSIIの最小システムは128キロバイトバイト)
(2) 効率の高い仮想記憶制御を行い富士通のOSとして初めて多重仮想記憶制御を実現
OSII/VSの前身のOSIIにおいてメモリ資源の第1次仮想化を実現していた.しかし,OSIIではジョブがロールアウトしている場合を除いて論理ページは物理ページと1対1に対応している必要があった.OSII/VSでは,ハードウェアのAPA (Advanced Page Address)機構を使用してこの制約をなくし,論理ページと物理ページは必要に応じて動的に対応させるようにし,完全な仮想化を実現した.これにより,4メガバイトの仮想空間を最大127個割り当てることができた.
また,ページリプレースメント(Page Replacement)方式としてLRU (Least Recently Used)方式を採用したが,ページイン/アウトが極端に高くなるスラッシング状態になった場合には,LRU方式からRANDOM方式に切り換える制御を採った.
(3) オンラインサポートを強化(オンラインデータベースINISおよびRICSの提供)
OSIIではオンラインソフトウェアとしてSOMおよびCOPを,データベースマネジメントシステムとしてRAPIDをそれぞれ独立に提供していた.OSII/VSでは,SOMとRAPIDを結合・統合し,データベースを中心とした情報システムの確立を目的としたINISと,COPとRAPIDを結合・統合し,本格的なオンラインデータベースシステムの運用を目的としたRICSの2種類のオンラインデータベースを提供した.
INIS:Integrated Information System,RICS:Real time Information Control System
(4) BOSからOSII/VS(OSIIでも可)への移行用として2種類のBOSエミュレータを提供
統合型のエミュレータBOSEM2は,OSII/VS下で"BOSEM2 + BOSモニタ+ BOSジョブ"がOSII/VSの1つのジョブとして動作し,他のOSIIのジョブと多重処理ができた.対象システムはBOS,BOSIIおよびBOS/VSであった.
スタンドアロン型エミュレータBOSEMXは,"BOSEMX + BOSモニタ + BOSジョブ"が単独で動作する.統合型に比べハードウェア資源が少なくて済み,エミュレータを使用する時間とOSII/VSを使用する時間帯を分けて運用した.対象システムはBOSおよびBOS/VSであった.