【富士通】 MONITOR V

MONITOR Vは,富士通の大型汎用コンピュータFACOM 230-60用のオペレーティングシステム(以下OS)で,1968年12月にバッチ機能,1970年12月にTSS(Time Sharing System)機能が完成した.その後,超大型汎用コンピュータFACOM 230-75用OSとして,MONITOR Vとの互換性を維持しながら処理能力と信頼性を大幅に強化したMONITOR VIIが開発された.このMONITOR VIIとほぼ同等の機能を持つOS MONITOR VIがFACOM 230-60用として提供された.
以下に,MONITOR Vの開発背景と特長について述べる.MONITOR VIおよびMONITOR VIIについては,別項で述べる.

1.MONITOR V開発の背景

富士通の大型汎用コンピュータ用OSとしてリアルタイムジョブとバッチジョブを並行処理するFACOM 230-50MONITOR IVがあった.このリアルタイムジョブは電文交換,データ収集分配,座席予約,銀行業務などを応用例とするオンライン処理であり,処理の即時性に加えて,あらかじめデータの処理手順が決まっているという特徴を持つ.したがって,リアルタイムジョブを実行する場合,目的の処理に必要な手順はすべて事前にプログラムとしてコンピュータに読み込まれていることを前提に,端末からはデータ投入だけがなされた.
MONITOR Vの企画を開始した当時,リモートバッチ処理やデマンド処理を可能とするTSSのニーズが高まっていた.デマンド処理は計算機と会話しながら処理を決めるため会話型処理とも呼ばれ,その実現には新しい制御が必要とされた.
そこで,バッチ処理およびTSS処理を統一的な概念の下に制御するMONITOR Vが開発され,1968年12月にバッチ機能,1970年12月にTSS機能が完成した.このMONITOR Vでは,富士通のOSとして初めて本格的なマルチタスク制御を実現するとともに,世界に先駆けて2CPUの対称型密結合マルチプロセッサ制御を実用化した.

図 MONITOR V システム概観図

図 MONITOR V システム概観図


その後,FACOM 230-60用のOSとして超大型汎用コンピュータFACOM 230-75用OSのMONITOR VIIとほぼ同じ機能を持ったMONITOR VIが提供された
2.MONITOR Vの特長

MONITOR Vは,以下の特長を有した.

(1) 富士通で初めてTSS(リモートバッチ処理とデマンド処理)機能をサポート
富士通のOSとしてTSS処理機能を初めて提供した.TSS処理とバッチ処理は同時並行処理が可能で,これにより,計算機の利便性が格段に向上した.
(2) バンキングシステムなどオンライン処理のためのCOP (online COmmon Package)を提供
オンラインシステムに共通に使用される機能をサポートするソフトウェアパッケージMONITOR V COPを提供した.
(3) 世界に先駆けて対称型密結合マルチプロセッサ制御を実用化
FACOM 230-60では,世界に先駆けて主記憶を共有する対称型密結合型マルチプロセッサを採用した.MONITOR Vでは,2CPUのシステムでは,1CPU比1.6〜1.8倍という高い処理効率を実現した.
(4) マルチタスク制御を本格的に行った富士通初のOS
TSS処理やバンキングなどのオンライン処理では,端末からの呼び出しに対する応答,それに続く処理,その結果の通知について緊急性が要求された.そこで,プログラムを1つの流れの単位ではなく,独立した流れをなす部分(これをタスクと呼んだ)に分け,各タスクには緊急度に応じて実行優先権を与えるマルチタスク制御を実現した.
(5) 信頼性向上機能(OSファイルの二重化,パトロール診断)の実現
プログラムローディングの際,ハードエラーによりロードが失敗した時に備えてOSファイルを格納した磁気ディスクを二重化しておき,ハードエラー検出時に代替えファイルからプログラムローディングを続行する機能を実現した.また,全CPU命令が正常に動作していること(異なる命令を駆使して同様な結果が得られることの検証),およびOSの主要制御表に矛盾がないことを1秒ごとにパトロール診断をして,OSの安定走行状態の維持を図った.
3. MONITOR VのTSS制御機能

MONITOR VのTSSは,その処理方式からみるとリモートバッチ処理とデマンド処理に分けられたが,これらの処理を行うMONITOR VのTSS制御機能について述べる.

(1) リモートバッチ処理
リモートバッチ処理は,端末装置を使ってバッチジョブの実行を指示し,実行結果の出力を端末装置で取り出す形態である.TSS端末はすべてリモートバッチ処理の入出力装置として使用できた.
(2) デマンド処理
デマンド処理は,利用者と計算機がオンライン接続され,相互に情報を交換しながら仕事を進める処理形態で,会話型処理とも呼ばれる.この会話のために,計算機に指示を与えるコマンド,技術計算用の会話言語BACCUS (Basic Calculus),端末からファイルの作成・修正・編集を行う会話型言語LINEDが提供された.
(3) 端末制御
TSS用端末装置としては,遠隔地に設置され通信制御装置CCU (Communication Control Unit)を通して回線で接続された通信端末装置と,計算機の周辺におかれ計算機に直接接続された入出力装置が使用できた.TSS制御プログラムは,端末装置の種類や接続方式の相違を意識しないで使用できるようにした.そのため,通信端末とはMONITOR VのCCAS (Communication Control Aid System)を使って伝送制御を行った.
(4) ロールイン・ロールアウト制御
デマンド処理のTSSジョブの実行時に,使用者(他の計算機の場合もある)に問合せをし,その返答を待つことがある.使用者の思考時間や通信回線速度などから返答を受け取るまでの時間は計算機の処理速度に比べると非常に長い.この間,TSSジョブが占有する主記憶領域が遊んでしまうので,一時的に磁気ドラム装置や磁気ディスク装置に退避し(ロールアウト),実行可能となった時点で主記憶に呼び戻す(ロールイン)といったロールイン・ロールアウト制御を行った.