【日立】 VOS3/FS

VOS3/FSは,1995年当時で単一プロセサとして世界最高速を実現したMP5800,およびその下位機種のMP5500等をサポートしたVOS3/AS後継OSとして開発した.バッチパラレル,データベースパラレル等の本格的パラレル機能の提供により,高性能化,高信頼化,大規模化を実現した.巨大な単一プロセサ性能を必要とする業務,比較的小さなプロセサをいくつも並べた並列処理環境で得られる高速化と高信頼化が有効な業務等,あらゆる業務の単一プラットフォームでのサポートを可能にした.

VOS3/FSは1995年4月発表,同年10月から出荷を開始した.

VOS3/FSは,ネットワーク,パーソナルコンピュータ,ワークステーション,部門サーバなどによって構成される広域複合システムの中枢となるシステムサーバとして,更にデータベースサーバ,マネージメントサーバ,コンピューティングサーバの役割を一手に引き受けるトータルマネージメントサーバシステムとして開発した.
広域複合システムを実現するため,拡張性の高いアーキテクチャとして,アプリケーションの共通な開発・利用環境を実現する日立アプリケーションアーキテクチャHAAを定め,オープンシステムとの連携を強化し,豊富な機能による大規模システム構築を可能にした.

HAA(Hitachi Application Architecture)は,アプリケーションの共通な開発・利用環境を実現するアーキテクチャであり,次の3つの共通インタフェースを提供した.

HAAの3つの共通インタフェース
インタフェース 内 容
API( Application Programming Interface) 域複合システムを構成する各システムの共通プログラミングインタフェース
CSI( Inter Application Communication Support Interface) 各システムのアプリケーションが相互に連携し合うための共通通信インタフェース
COI( Common Operation Interface) いろいろな端末,ワークステーションの共通操作インタフェース

また,オープンシステムとの連携強化として,次のようなシステム環境構築を可能にした.

  • パーソナルコンピュータおよびワークステーションからセンタシステムの資源を利用する環境
  • パーソナルコンピュータおよびワークステーションとセンタシステムを有機的に結合し分散処理する環境
  • パーソナルコンピュータ,ワークステーション及びホストコンピュータを一つのシステムとして統合管理する環境

図-1 オープンシステムとの連携の例

図-1 オープンシステムとの連携の例

大規模システム構築のためには次のような機能を提供した.

  • 高性能ハードウェアでの並列実行機能
  • 大容量記憶装置,拡張記憶装置のサポート
  • 大規模DB/DC
  • ネットワークの拡充
  • リモートバッチ(RJE(Remote Job Entry),RESP(Remote Batch Station Program))
VOS3/FSでは,処理を高速化するため,並列実行機能を実現した.並列実行システム形態の概念を図-2に示す.
図-2  並列実行システム形態の概念

図-2 並列実行システム形態の概念

並列実行システムを運用するためのハードウェア機能として次の機能を提供した.

  • 周辺装置を柔軟に接続及び運用するためのACONARC (Advanced Connection Architecture)
  • 各プロセサ間での並列処理を高速に制御する高速結合機構
  • システム全体を統合して運用・管理できる統合コンソール
  • 複数のプロセサの時間を合わせるためのパラレルシステムタイマ
VOS3/FSで提供した並列実行機能としては次のようなものがあった.
(1)データベース処理の並列実行機能
大規模データベースシステムに対し,入出力処理の並列実行及び検索要求の分割並列実行によって,処理時間の短縮を図った.また,データベース処理をデータベース専用のプロセサで実行することで,各プロセサの負荷を分散した.
(2)ジョブステップの並列実行機能
複数のジョブステップで構成されているジョブのジョブステップを並列実行させ,ジョブの実行時間の短縮を図った.また,メモリ上で,一つのジョブステップから複数の後続ジョブステップヘのデータの同時転送,複数の後続ジョブステップヘのデータの分割転送を可能とした.図-3にジョブステップ並列実行機能を示す.

図-3  ジョブステップ並列実行機能

図-3 ジョブステップ並列実行機能

(3)トランザクションの並列実行機能
セション接続時にオンライン上のシステムの負荷状況に応じて,接続するシステムを自動的に選択した.これによって,ネットワークで接続された複数のシステムを単一システムとして扱えた.セション接続後,各端末から同一トランザクションを複数のシステム上で同時に実行することで,トランザクションの実行時間を短縮した.

VOS3/FSでは,プロセサごとに機能を分散したり,ジョブを複数プロセサで分散したり,システムの負荷を分散したりするなど,並列処理の実行のため,ユーザの利用形態に応じて,さまざまな並列実行システム構成の形態を提供した.また,プロセサ内のパラレル機能だけを利用できるTCMP型から,プロセサ間のパラレル機能を利用できるシステム形態への移行が容易に行えることで高いスケーラビリティを実現した.図-4に並列実行システム構成の形態の例を示す.


図-4  並列実行システム構成の形態の例

図-4 並列実行システム構成の形態の例

大容量記憶装置のサポートとしてVOS3/FSでは,各ユーザに2ギガバイト(2048メガバイト)ごとの多重仮想記憶を提供することに加え,大容量の記憶装置を活用するM/ASAモードを提供した.M/ASAモードは,大容量の実装メモリを活かすことによって大量のデータをメモリ上で高速に処理できるもので,次の機能からなっていた.

  • データ専用空間:アドレス空間とは別のデータ専用の空間(データ空間,スーパ空間)を実現し,大容量のデータを仮想記憶上に置ける.
  • アドレシングの拡張:データ専用空間を使用することで,16兆(16テラ)バイトのアドレシングが可能.

また,拡張記憶機能としては,高速大容量の内蔵形拡張記憶装置をサポートし,データ処理を高速化した.拡張記憶機能には,次の4種類の使い方があった.

  • ページング,スワッピング用の高速補助記憶
  • ESファイル機能(拡張記憶装置上にSAM(Sequential Access Method)ファイルを割り当て,使用する機能)
  • ES常駐データベース(XDM/SD)(アクセス頻度の高いデータベースをES(ES:Extended Storage)上に常駐させる)
  • XDM/RDワーク用RDエリアの拡張記憶装置の利用

大容量メモリ利用機能としては,仮想記憶を利用して,処理の高速化を図るために次の機能を提供した.

  • データインバーチャル機能(DIV(DIV:Data in Virtual)):VSAM(Virtual Storage Access Method)データセットを仮想記憶上にマッピングして,入出力マクロ命令を介さずにデータを操作
  • 拡張プログラムローディング(XPL(XPL:Extended Program Loading)):プログラムをあらかじめ仮想記憶上にローディングしておき,ローディング要求があった場合は直接,仮想記憶上から複写することによって,処理を高速化
  • VSAM高速アクセス機能(VSAM HAF(VSAM HAF:Virtual Storage Access Method High Performance Access Facility)):VSAMデータセットの一部を仮想記憶上に常駐化して,入出力回数を削減し,高速化
  • 並列同期転送機能(PREST(PREST:Parallel Reference and Synchronous Transfer)):複数のジョブ間又はジョブステップ間で受け渡しする一時データセットへの入出力を,すべて主記憶上のデータ転送で置き換えることによって,入出力処理を高速化