近畿日本鉄道の座席予約システムは,1958年末より同社と日本電気でシステム設計・開発を行い,1960年4月に稼動を開始した.このシステムは上り,下りそれぞれ最高80列車を運行日の5日前より,20ヶ所の駅または旅行代理店から照会,発売,払戻を約3秒で行うことができるもので,それ以前の事前割当てと電話連絡による方法にくらべて驚異的な機能を提供した.
システム全体が信頼性,保守性を重視して設計され,端末,回線,中央装置の随所で折り返し切り分けテスト,動作マージンテストを行うことができ,さらに端末相互間で通話のできる電話を併設した.
端末装置は,写真のようにキーセットとリレーとトランジスタを用いた制御部から構成された.回線は近鉄が所有するマイクロ回線網の電話1回線分を用いて,搬送電信方式によりすべての端末と中央装置を結んだ.中央装置は中央処理装置と磁気ドラムよりなり,中央処理装置は論理配線で機能動作が定まるWired program方式の専用処理装置で,カウンタや制御回路の二重化,パリティビットを含んだ論理演算,磁気ドラムの書込み後読出しチェックなどにより誤動作を検出し,正常になるまで繰り返す方式をとり論理素子にはNEAC-2203用のパッケージを用いた.
磁気ドラムは,本システム用に100万ビットの当時としては超大型のものを開発した.ドラムは2台設け同一の内容を両方に記録し,読出しも両者を比較し,単独運転から二重化運転へ移行する際のためコピー機能をもたせた.
このシステムは上述のように業務,運用,保守において豊富な機能をもったものであり,その開発,運転によりオンラインシステムの貴重な経験を数多く得たが,Wired program方式のため設置後の変更,拡張が困難で,日本電気が次に開発した日本航空のシステムはプログラム記憶方式のNEAC-2230を中心とするものとなった.