松下通信工業(現パナソニック モバイルコミュニケーションズ)ではMADIC-Iの試作後に,当時の電子計算機の市場性とそれに対する独自性を持って貢献する方途を検討し,科学技術計算用トランジスタ式電子計算機MADIC-IIの商品化を計画した.目標として下記の特徴を持たすこととした.
①座右にあって常時利用できるものであること. ②操作が簡便で誰でも容易に取り扱えること. ③信頼性が高いこと. ④安価であること. ⑤小形であること.
1959年5月に大杉欣一郎を中心とする開発がスタートし,MADIC-II試作機を評価後,最初の商品MADIC-IIAを1961年に開発した.2進直列演算方式を採用し,レジスタ類を磁気ドラム上に配置することにより,部品数を大幅に削減して高信頼性,小型化,低価格化を実現した.外観はデスクトップタイプにまとめ操作性の向上を図った.ハードウェアとして浮動小数点演算機構を持ち,プログラムの面でも倍長演算,関数計算,線形計算,特殊計算など約50種の科学技術サブルーチンが準備され,東京大学森口繁一によるSIPやsmall ALGOLコンパイラの開発も行われ,機械の使い勝手の大幅な向上が図られた.
1961年10月にMADIC-IIAの1号機が日本電子工業振興協会関西計算センターに設置され広く計算に使用された.引き続き同形機が大阪府立成人病センター(心電図解析),和歌山大学などに納入された.またコンピュータモービルとしてバスに搭載され,各地を巡回,展示実演も行われた.
現在入出力装置を含むMADIC-IIAシステム一式が和歌山大学に保存されている.
MADIC-IIA | |||
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初出荷時期 | 1961年10月 | ||
演算方式 | 2進法, 直列, 固定小数点, 浮動小数点 |
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演算素子 | トランジスタ 400 ダイオード 4,000 |
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語の構成 | 命令語 1語 数値語 符号+33ビット |
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命令 | 31種, 1+1アドレス方式, インデックスレジスタ 2個 |
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クロック | 200kHz | ||
演算速度 | 固定小数点 | 浮動小数点 | |
加減算 | 11.7ms | 15.5ms | |
乗算 | 23.2ms | 23.2ms | |
除算 | 23.2ms | 23.2ms | |
主記憶装置 | 磁気ドラム(松下通信製) 4,096語(5.5ms) |
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入出力装置 | プリンタ Flexowriter 10字/秒 1台 紙テープ装置 読取 200字/秒, 書込 50字/秒 問合せ用タイプライタ 1台可能 |