スイッチング理論/リレー回路網理論/論理数学理論

スイッチング理論は,ブール代数,論理代数,論理数学などとも呼ばれるコンピュータ理論の基礎をなすものであるが,この分野では我が国には世界に先駆けた第一級の業績がある.

日本電気において遠方監視制御装置,交換機などのリレー回路の設計に取り組んでいた中島章は,当時天才的な勘によって行われていた手法を理論的に取り扱うことを考えた.中島の研究は先人たちのリレー回路設計の実績から,その定石を抽出することに始まり,接点の作動インピーダンスが0または無限大のいずれか一方の値をとる時間の関数であることを踏まえた理論へと発展した.各接点のインピーダンスをA,Bなどの記号で表し,2つの接点の直列,並列の接続をそれぞれA+B,A×B,インピーダンスが等しいことをA=Bと表わすことにすると,+,×などの演算記号が初等代数学の演算法則とはまったく異なる法則にしたがうことを見出した.これはブール代数とまったく同じものであったが,当時,中島はブール代数の存在を知らなかった.

中島が電信電話学会雑誌に発表した2年後に,同じ内容の論文をシャノンが出すのであるが,こちらの方が世界の学会では有名となり,スイッチング理論の創始者としての栄誉に浴している.

電気試験所の大橋幹一は丹羽保次郎の紹介で,中島が日電月報に書いた論文を読み,そのすばらしさに魅せられたが,大橋もこのとき初めてブール代数に接したのである.大橋は中島の理論がリレーの接点回路網,いわゆる組合せ回路の理論に止まっていることに注意し,リレーの巻き線に与える電流が変化してから接点が動作するまでの遅れを考慮したリレー回路理論を提案した.この理論はスイッチング関数の変数としての時間を陽に含む関数方程式によるもので,大橋はこの関数方程式を解くために独自の演算子法を考案したが,その数学的解法は困難であった.

電気試験所で大橋の後輩であった後藤以紀は,大橋の理論を検討し,その解法を容易にするため,時間遅れを論理関数に採り入れるように論理代数を拡張し,これを論理数学と称した.この体系の下に未知の論理関数を含む方程式すなわち論理関数方程式を解くことにより,リレー回路の動作を時間の関数として求め,その解析および構成を計算によって行うことに成功した.


中島・榛澤論文I中島・榛澤論文II大橋論文I
 
大橋論文II後藤論文