【日立】 HITAC M-180IAP

汎用機HITAC M-180の科学技術計算の性能を強化するために,付加機構として開発された内蔵アレイプロセッサ(IAP : Integrated Array Processor).1978年完成.優れた価格性能比で,使いやすい装置を提供することを目標として,独特の内蔵ベクトル演算方式(約40種のベクトル命令を装備)を開発し,汎用機で初めて10MFLOPS以上の実効性能を実現した.

ベクトルレジスタを持たず,仮想空間上のデータに対してベクトル演算を行う方式が採用され,高度な自動ベクトルコンパイラによって,ユーザは既存の標準FORTRANプログラムをそのまま使用することができ,また,TSSでも使えた. FORTRANプログラム中のベクトル化可能部分をコンパイラが検出して,M-180IAPベクトル命令を使った機械命令コードが生成された.一般にベクトル化はFORTRANのDOループを対象とするが,逐次的な実行を前提とする標準FORTRANプログラムをベクトル命令で実行すると,実行の順序が異なってくるため,どのようなDOループでもベクトル化できるわけではない.このコンパイラのために開発されたデータ参照関係解析技術により,DOループの自動ベクトル化が可能になった.また,M-180IAPベクトル命令の特長の1つとして,内積計算を行う命令を備えており,M-180IAP用FORTRANコンパイラは内積計算をしているDOループを検出して,内積ベクトル命令を適用するベクトル化も行っている.

大学の大型計算センターで広く使用され,また,気象庁などでも実運用に利用されることにより,ベクトル計算機の利用技術の向上に貢献した.このようなベクトル計算機の経験は,その後のスーパーコンピュータの開発や利用に活かされた.

IAPはその後,ベクトル化率を向上するためにベクトル命令を拡張させ,M-200HM-280HM-680Hの各機種の付加機構としてもサポートされた.M-200H IAPでは,間接参照に加え,総和,内積,1次漸化式など当時のCray-1がまだ完全にはサポートしていなかった機能を有した.またM-280H IAP は,新たに制御ベクトルを有し,これを活用して世界で初めて条件付きDOループを自動ベクトル化した.

ベクトル計算機の応用は,その後数値計算用だけでなく,記号処理の範囲まで拡大した.すなわち,関係データベース処理のベクトル計算機HITAC M-680H IDP(Integrated Database Processor)などが開発された.


  
HITAC M-180(IAP搭載)