【富士通】CPS80 (FACOM System80用OS)

 CPS80は小型オフコンFACOM System80シリーズ用に開発されたOS(オペレーティングシステム)であり,1979年4月に発表された.FACOM System80は,富士通および内田洋行とユーザック電子工業(後のPFU)のオフコンの小型領域の先駆けとなったFACOM Bmを継ぐオフコンであり,CPS80はBMOSFACOM Bm用のOS) の流れを汲んだOSであった.CPS80は,後述のマルチワークシステム対応を加えるなど,UNIOS系OS (FACOM Vシリーズ用のOS)の経験を活かし,BMOSに対して大幅な機能強化が図られていた.
 当時,オフコンは,中小規模の企業での事務処理を中心としたホストコンピュータとしての用途に加え,企業の部内OA (Office Automation)を担うセクションマシンやネットワークの分散コンピュータとしての用途が広がっていた.これらは専任オペレータがいないことを前提とした使い方であることが重要な要件であった.FACOM System80およびCPS80は,このような新たな用途を重視した次の設計理念に基づいて開発された.

  • “いつでも”,“どこでも”,“誰でも”が使えるコンピュータであること
  • 定型業務に加え,非定型業務にも適用できる総合的なオフィス業務処理機能を備えること
  • 卓上形フロッピーベースシステムから本格的マルチワークシステムまで揃え,幅広い業務規模・業務形態に対応できること

  FACOM System80の特徴的な利用形態を表すシステム構成は,図-1に示すような複数のディスプレイワークステーションを配置した構成である.これはマルチワークシステムと呼ばれ,第一線で仕事をしている人たち(エンドユーザ)が,データの即時入力や日常業務の即時処理を行う用途を目指したものである.


図-1 マルチワークステーション構成

図-1 マルチワークステーション構成

 CPS80は,セクションマシンやネットワークの分散コンピュータとして簡易で効率的な利用を可能とするために,図-2に示すようにさまざまな機能を装備していた.以下,CPS80の特徴的な機能について概説する.


図-2 CPS80の構成

図-2 CPS80の構成

(1) 会話型の処理
 専任オペレータのいない環境での使用を支えるために,次の特徴を持つ会話型のマンマシンインタフェースでオペレーションの遂行を可能とする機能が提供された.
  • 日本語による会話
  • メニュー(日本語メニュー)オペレーション
(2) 日本語処理
 UNIOS/F4のエンハンス(1979年4月発表)と同様,JEF(Japanese processing Extended Feature)体系の下で,次のような日本語処理機能が提供された.
  • 特別な日本語入力装置がなくても日本語メッセージを入力できるユーティリティ機能
  • 各種メニュー,ディスプレイワークステーションの画面様式とプリンタワークステーションの帳票様式を応用プログラムから独立した形で定義する機能.この機能は,日本語処理を行う応用プログラムの作成と修正を容易にした.
(3) マルチワーク処理
 企業内の第一線に設置されたディスプレイワークステーションを効果的に活かす処理形態を可能にした(図-1参照).すなわち,各ディスプレイワークステーションは個々独立に利用でき,スプールライタによる印刷処理も同時に処理できた.また,緊急処理を割り込ませた後,ワークステーション処理を中断個所から再開できる機能も提供された.
(4) ダイナミックメモリリロケートおよびリエントラントプログラム制御
 これらは主記憶を有効に利用するための機能であった.
  • ダイナミックメモリリロケート
     主記憶を必要なとき,必要なだけ利用するための機能である.具体的には,主記憶を2キロバイトのページと呼ばれる単位に分割し,実行するプログラムの大きさに足る数のページを用意する.この際,集められたページは非連続に分散していてもよく,論理的に連続したメモリ領域として扱えた.
  • リエントラントプログラム制御
     同一のプログラムを必要とする複数の処理が要求された場合,1つのプログラムのロジック部を共有し,個々の作業域だけを複数個持つことで主記憶の節約を図る方法であった.図-1はリエントラント制御が行われている様子を表している.
(5) オンライン処理
 BSCとFTSの伝送制御手順があり,FTSでは1本の回線で多重通信ができた.またCOBOLでオンライン処理のプログラム作成が可能であり,ファイル転送のためにはユーティリティ(FTRUTY)が用意された.
(6) データベース指向の多重索引順編成ファイル
 多重索引順編成ファイルとは,1つのデータファイルと複数の索引ファイルで構成された複合ファイルである.データをさまざまなキー項目で呼び出すことができた.最大6つの索引ファイルの設定が可能であった.
(7) インタラクティブレポータ(IREP)
 緊急に求められる非定常な業務としてのデータ検索や報告書を処理するためのユーティリティであった.実行のためのパラメータをシステムと会話しながら入力できるエンドユーザ指向の機能を持っていた.
(8) プログラム開発ツールCAPSEL IIIおよびCAPG
 “誰でも”使えるコンピュータであるために,応用プログラム開発の仕方に応じたツールが用意された.
  • パッケージプログラムを用意し,若干の設計だけで目的のプログラムを作成
     この方法に合わせたのが,CAPSEL IIIであった.CAPSEL IIIは多岐に渡るユーザ条件を選択し,組み込んでパッケージ化できる柔軟で汎用性の高い構造をとっていた.主要なパッケージ構成としては,財務会計や人事給与に向けたものがあった.(図-3参照)
  • COBOLによるプログラム作成
     このような方法の簡易化を図るためにCAPEと呼ばれるプログラムゼネレータが用意された.CAPEは,ワークステーション処理での基本的な処理を複数のパターンに整理し,それらのパターンを基に簡単なパラメータによって必要なプログラムを生成した,生成可能な処理内容として,ファイル創成,ファイル保守,ファイル表示,ファイル印刷があった.