MARS 101
MARS 1に続いて開発された国鉄(現・JR)座席予約システム.MARS 1は試行的なものであったが,MARS 101は我が国初の本格的なオンラインリアルタイム情報処理システムであった.全国の多数の列車を対象とし,単に座席指定だけではなく,予約業務全般のコンピュータ化が図られた.国鉄から東京大学に移っていた穂坂衛の原案に従って,国鉄と日立製作所の協力により,システムが開発された.1963年,東京の秋葉原駅に中央装置が設置され,翌年2月,MARS 1に代って営業を開始した.当初は4列車分の2,400座席からスタートし,翌年3月には72列車32,000座席を扱えるようになった.続いて10月には同形のMARS 102が追加され,全国152駅に「みどりの窓口」が開設された.同年末には238列車127,000座席の8日分が自動化の対象となった.
システムは,列車,運行ダイヤ,料金などの表の検索を行うコンピュータ,座席ファイルを用いて空席パターンの探索と更新を行うコンピュータ,および,システム全体の処理の流れを管理し,制御を行う主コンピュータなどからなっていた.これらのコンピュータは磁気コアメモリを共有し,データの受け渡しを行った.表や座席ファイルは磁気ドラムに保持された.システムは二重化され,高い信頼性を実現した.当時はまだ,OSやマルチプログラムなどの概念がなく,独自のリアルタイム制御プログラムが開発された.
また,当時は発券業務を担当する窓口の係員がキーボード入力になじみがなかったことや,座席指定券や乗車券の印刷に使用できる漢字印刷機がなかったことから,窓口装置には工夫がこらされた.扁平な木片の先端に駅名や列車名の活字,側面に機械で読み取るためのコードをつけ,その木片を装置に差し込むことによって,データ入力と券面の印刷ができるようになっていた.
中央処理装置として開発されたHITAC 3030は,その後全日空や東海銀行などのオンラインシステムでも使用された.
その後も以下のように多数の機種が開発された.
MARS 102
1965年10月の東海道新幹線増発時に,MARS 102が増設され,みどりの窓口の運用開始とともに利用が始まった.MARS 101では,1列4人以下の客室しか割り当てられないので,新幹線列車を取り扱うことが出来なかった.MARS 102では,新たに座席ファイル制御装置を設け,新幹線列車についても扱えるようになった.さらに,在来線相互間及び在来線新幹線相互間の列車の乗り継ぎ予約も取り扱えるようになった.既設のMARS 101とMARS 102とが一体となったシステムでは,座席数が従来の約5倍の約15万席まで取り扱えるようになった.
MARS 103
1968年10月の白紙ダイヤ改正に対応するために,MARS 103が増設された.MARS 103は1日20万席,1週間(1部の座席は3週間)の予約業務を行うことが可能である.
MARS 1,101,102と異なり,汎用計算機を使用したシステムである.MARS 103の中央処理装置は,汎用大型コンピュータHITAC 8400 2台による並列運転方式のオンラインシステムと,予約業務に関連した統計業務に使用される8400 1台のオフラインシステムから構成された.
また,専用のオペレーティングシステムが開発された.並列運転時両系照合不一致時の再試行,単独処理装置に2組のファイルを接続する単独2重ファイル運転,単独1重ファイル運転の運転方式間の自動構成変更制御,ファイルや機器の一部の障害時の部分切り離しの自動制御,瞬間的な障害による停止の防止などのシステムの信頼性を高める機能を持っている.また日常定形作業は実時間時計に連動して作動するソフトウェアや,1968年10月1日の白紙ダイヤ改正に対応するために,従来のMARS 102,103システムに収容されている列車を一晩のうちに確実にMARS 103へ移行させるソフトウェアも使用された.
MARS 104
1970年1月に大阪万博の輸送に向けて稼動開始した.MARS 103と同じ能力を有しており,これによりMARS 101は使命を終えた.
MARS 102,103,104の3システムで1日約50万席,1週間(一部の座席は3週間)の指定席を発売した.
MARS 105
山陽新幹線をはじめとする新幹線網の拡張により指定席座席数は飛躍的に増加し,今後整備される東北,上越新幹線開業時の量的拡大に対処する必要があり、開発された.
MARS 105は1972年9月,1日の取り扱い座席数70万席で稼動開始し,1974年10月新幹線博多開業 に備えて140万座席/日まで増強された.
本システムの特長は次のとおりである.
- (1)中央処理装置を並列に接続し,片方を座席ファイルの管理及び予約業務を担当するファイルコンピュータ(以下,FCと略す),他方を端末との通信制御処理及び複数のFCへの呼の流れを制御するコミュニケーションコンピュータ(以下,CCと略す)とする方式を採用した.CCとFCの接続は応答時間を短縮するためチャネル結合方式とした.
- (2)CCはHITAC 8700 3台で構成され,通常はそのうちの2台によりマルチプロセッサを構成し,オンライン処理を行う.残り1台が予備及びバッチ処理用となっている.3台の処理装置のうち2台が故障となった最悪の場合には,シングルプロセッサでのオンライン運転が可能である.
- (3)収容座席数の増加,発売期間の延伸により座席ファイルの容量が増大したため,従来のシステムでは,磁気ドラムに収容していた座席ファイルを磁気ドラムと磁気ディスクに収容した.
- (4)座席予約業務に適した専用オペレーティングシステム(OS)をすべてのMARSシステムに採用した.さらに,このOSはオーバーヘッドを極力少なくするために,頻繁に使用される部分(1件の走行ステップ数の約20%に相当)をマイクロプログラム化した.
MARS 201
団体旅行予約専用のシステムとして開発され,1969年12月から稼動開始した.
1日32万座席の予約を扱える.
MARS 202
旅行案内センターなどに設置されている団体予約用端末と接続され,5カ月前からの団体予約及び団体乗車券の発売ならびに企画商品の発売が可能となったシステムである.
1975年5月に稼動開始した.
中央処理装置は1台のHITAC 8450で構成され,90万座席/日の処理能力をもつ.
MARS 301
MARS 100系,MARS 150系,MARS 200系の統合システムで,1985年3月に稼動開始した.
同時に投入されたM型端末は,初めてモニタとキーボードが付き,駅コードが入力可能となり,国鉄全線全駅を対象とした発券が可能となった.
ここに,MARS 150系とは,1975年に稼働開始した電話予約システムである.
利用者が手軽に指定券を予約できるようにするため,プッシュホンから指定券の予約が可能になったシステムである.中央処理装置は2台のHITAC8400で構成され,通常は1台でオンライン業務を,他の1台でバッチ業務を行う.プッシュホンの応対は2台からなる音声応答装置により行い,音声応答装置と中央処理装置間を通信回線で結んだ.座席予約はMARS 105で行われ,予約された情報をMARS 150の予約ファイルに格納する.予約番号などを端末から入力し,指定券発売端末のある「みどりの窓口」で指定券が発行される.
MARS 305
国鉄分割民営化後,初めて1993年2月に稼動開始した鉄道情報システムである.
当初はM-880 2台,その後1997年にはMP5800に移行した.
MARS 501
現行のシステムで,2002年から稼動開始した.ネットワークのIP化を達成し,システムをオープン環境へ移行した.