【東芝】 TOSBAC-1100E

TOSBAC-1100Eは,DTL(Diode Transistor Logic) ICを採用した国産初のIC計算機である.TOSBAC-1100シリーズは,紙テープにせん孔されたプログラムを一命令ずつ読み込んでは実行する,いわゆる外部プログラム方式であった.

同シリーズの最初のモデルは,1963年6月に日響電機と協力して開発・発表されたTOSBAC-1100Aであり,スイッチングトランジスタを使用したTOSBAC-3100の基本回路をベースにした演算装置にIBM社製B形タイプライタ,東芝製12単位紙テープせん孔機,日響電機製紙テープリーダを接続したものであった.その用途は,伝票発行集計と上位機TOSBAC-4200の入力用紙テープ作成であった.TOSBAC-4200が,限られた主記憶容量(4〜40k桁)しかもたず,処理速度も遅かったために,前処理を肩代わりさせることによりTOSBAC-4200の負荷を小さくしようという苦肉の策から生まれたものである.

2番目のモデルは,TOSBAC-1100Dと呼ばれ1964年4月に発表された.保守性向上やハードウェア安定化対策などのための演算処理装置部の改善に加え,紙テープリーダからのデータ入力を実現し,いわゆるターンアラウンド処理を可能とした(TOSBAC-1100Aの紙テープリーダはプログラム読み取りのみであり,データ入力はもっぱらキーボードに限られていた).このモデルのレンタル月額は,当時の事務員の1人の人件費を意識して7万7千円に設定されたため,中小企業にとっても導入しやすいコンピュータとして注目された.

3番目のモデルがTOSBAC-1100Eであり,1968年4月に発表された.IC採用以外にも,以下のような技術的特徴を持つ.

(1)両面スルーホール基板
当時開発途上にあり実用例が数少なかったスルーホール基板を採用した.
(2)ゴルフボール式高速タイプライタ採用
IBMが次世代の画期的プリンタとして発表した725型タイプライタ(通称ゴルフボール,またはセレクトリックタイプライタ)を独自技術で入出力用に改造し使用した.当時のタイプライタの印字速度が10字/秒程度であったのに比べ,ゴルフボールは15字/秒の印字速度であった.
(3)基板交換を基本とする保守
本体部は機能別に分割された13枚の基板から構成され,修理は基板交換を基本とした.
(4)マイクロプログラム制御
TOSBAC-3400で実用化したダイオードマトリクスによるマイクロプログラム制御方式を採用.
(5)非空調化
恒温槽に入れて使用していた磁気コアメモリとして温度範囲の広いものを採用し,室温での使用を実現した.なお,このときにTOSBAC-1100Eに搭載されていたメモリは,なんと,たったの16語であった.

なお,TOSBAC-1100Eと同じ時期にTOSBAC-1100Mが発表された.


  
TOSBAC-1100E