1980年8月に発表された,分散処理のためのインテリジェント端末機能(注1)を内蔵したOCR端末である.
当時,事務や業務の効率化のための情報処理システムの適用拡大が進む中で,企業内ネットワークの末端で一定のデータ処理を行うネットワーク分散処理への要求が高まっていた.このような背景から,情報処理システムで扱うデータを発生現場でクリーンデータ化(注2)できる機器が求められていた.FACOM 6315Aは,このような要請に応える分散処理指向型のOCRである.
F6315Aにはハードウェアの高速化に加え,以下の技術的な特長により,読取り精度の向上,処理の高速化,適用範囲の拡大が図られた.
- 読取り精度の向上のために,文字の輪郭部の形状に注目して文字を読む新認識手法「輪郭走査法」(注3)を採用.
- 手書き文字4種(英,数,記号,カナ)の混在読取り,複数種のフォントが混在した状態でも読み取るオムニフォント読取り等により,読取り文字種を拡張.
- クリーンデータ作成までの時間を大幅に短縮するために,いくつかのジョブの組の並行処理を可能にした.具体的には,読取りジョブと一括修正ジョブとの並行処理,読取り修正ジョブとデータ転送/変換ユーティリティジョブとの並行処理.
- 同社として初めて光学系のイメージセンサとして,読取り幅を拡張しやすいCCD(Charge Coupled Device:固体撮像素子の一種)を採用. これにより,読取りスキャン幅が広がり,B4ヨコ,LP用紙などの大きな用紙の読取りが可能になった.(LP用紙とはラインプリンタ用の連続用紙の一種で幅15インチ等がある)
- リファレンスマークのない帳票を読み取る技術(注4)により,読取り帳票の制限を緩和し,適用業務の拡大と運用コストの低減が図られた.
(注1) ホストコンピュータを中心にしたネットワーク構成要素の中でコンピューティング能力を持つ端末はインテリジェント端末と呼ばれた.
(注2) クリーンデータ化とは,入力されたデータをメインフレーム等のホストコンピュータが直ちに扱える信頼性と形式を持つデータにすること.明らかな誤入力の排除や,手書き文字の認識と文字コードへの変換等を含む.
(注3) 輪郭走査法は反射法(FACOM 6312B参照)を発展させた文字認識技術である.描かれた文字の輪郭線が持つ特徴を抽出して,その特徴的なパターンを把握することで文字を識別する.なお,同社の手書き漢字認識技術についてはFACOM 6678A/B,FACOM 6679Aの項を参照.
(注4) リファレンスマークなしで行中心位置を割り出す技術には,スキャナの紙送り精度の向上(伸縮やスキューの減少),帳票の位置や傾きの検出,読取り対象行の位置の補正等の技術が含まれる.なお,リファレンスマークとは,帳票内の文字位置を正確に検出するために帳票の片端あるいは両端に付けられた黒色のマークのこと.