我が国で最初に内部記憶として全面的に磁心記憶(コアメモリ)を採用したOKITAC5090は,1961年に完成したが,その前年の1960年にプロトタイプとして,OKITAC5080を開発した.OKITAC5080は当時,国産機種のほとんどが磁気ドラムベースであった主記憶装置に磁心記憶(コアメモリ)を用い,スタティック回路方式を採用したトランジスタ型のコンピュータであった.入出力装置の多重化を取りやめて直列式とし,磁気コアの高速性を活かして回路を単純化し,高速,高信頼性化を図った.OKITAC5080の開発の成果はOKITAC5090に反映された.
OKITAC5090は,まずA型を1961年に完成,その後1963年までの間に6機種をシリーズとして市場投入し,当時のベストセラーとなった.最初のA型は,磁心記憶の採用により,入出力装置とのインタフェース部にバッファメモリを用いないで効率のよい高速入出力装置が接続できた.主記憶4,096語,数値語は10進法12桁/語,命令語は2命令/語のペアオーダ式,演算速度0.4m秒,入出力装置として電動タイプライタ,光電式紙テープリーダ,高速ラインプリンタを装備した.
A〜D型は当時ビッグマーケットであった大学を中心にベストセラーとなったが,その理由は磁気コアを使った高速な処理速度,使いやすい命令セット,豊富な入出力装置,とりわけ高速ラインプリンタが接続されていたこと,と言われている.磁心記憶の採用にあたっては,東京大学,元岡達の研究成果にあずかるところが大きかった.
OKITAC 5080 |
OKITAC5090シリーズ | |||||||
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A型 | B型 | C型 | D型 | M型 | H型 | |||
発表時期 | 1961年 | 1961年5月 | 1962年 | 1963年 | ||||
制御方式 | プログラム内蔵方式 | |||||||
語長 | 1語=42bit | 1語=50bit | 1語=42bit | |||||
数値 |
10進法 符号1bit+10桁 +パリティ1bit符号 |
10進法 符号1bit+12桁 +パリティ1bit |
固定小数点数 符号1bit+48ビット +パリティ1bit 浮動少数点数 符号1bit +指数部8bit +仮数部40bit +パリティ1bit |
完全2進数表現 固定小数点数 符号1bit+41bit 浮動少数点数 符号1bit+指数部9bit +仮数部32bit |
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命令数 | 22種類 | 52種類 | 58種類 | 58種類 | 64種類 | 85種類 | 199種類 | |
命令形式 | 2アドレス方式 | 1・1/2番地方式 1語2命令 | 同左 +補助語 | |||||
インデックス | 1個 4桁 | 1個 | 15個,1語長 | |||||
演算速度 |
加減算0.5m秒 乗算 15m秒 除算 17m秒 |
固定小数点数 加減算0.4m秒 乗算5.5m秒 除算10.0m秒 浮動小数点 加減算0.7〜1.4m秒 乗算 4.9m秒 除算8.9m秒 |
固定小数点 加減算30μ秒 浮動小数点 加減算85μ秒 |
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基本素子 | トランジスタ,ダイオード | |||||||
記憶装置 | 磁気コア1000語 |
磁気コア 1000語,2000語,4000語 |
磁気コア 4,000語,8,000語 |
磁気コア 8,192語〜16,384語 |
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入 出 力 装 置 |
PTR | 2台 | 1台 | 2台 | 1台 | 2台 | 2台 | 2台 |
LP | 1台 | 1台 | 1台 | 1台 | 1台 | 2台 | 2台 | |
ET | 2台 | 1台 | 1台 | 1台 | 1台 | 1台 | 2台 | |
CR | 1台 | 1台 | 1台 | 2台 | ||||
CP | 1台 | 1台 | 1台 | 2台 | ||||
MT | 1〜6台 | 1〜6台 | 1〜10台 | 1〜45台 | ||||
その他 |
消費電力 本体 250W |
磁気ドラム(1〜10台) |
磁気ドラム, 磁気ディスクを装備 |