SPIRALはFACOM 230-15用の基本ソフトウェア群の総称であり,1970年4月,FACOM 230-15とともに発表された.FACOM 230-15は,富士通のベストセラー機であったFACOM 230-10の後継機として,共に後にオフコンと呼ばれるカテゴリでの用途にも適用されたが,その基本は小型の汎用コンピュータであった.それゆえ,SPIRALは,小型汎用OS(オペレーティングシステム)としての機能を基本に持ち,それに加えて,「カナ文字COBOL」等の使いやすさを目指したオフコン的な用途に適した機能を提供した.以下,FACOM 230-15 SPIRALの概要を述べ,併せて,その前身となったFACOM 230-10(1965年3月に発表された)の基本ソフトウェアに言及する.
1. FACOM 230-15 SPIRALの概要
SPIRALは,モニタ機能,ページング機能,言語処理機能,通信機能を実行するソフトウェア群を中心に構成されていた.これらは,より大きなプログラムを扱えるページング機能や,より便利に使うためのマルチジョブ機能,リモート処理を簡易に扱えるといった,当時の小型機に求められた要件に応えるためにまとめられたものであった.
- (1)モニタ機能
- 小型の汎用コンピュータに適した制御プログラムを追求した結果,シングルジョブ制御のためのモニタI,マルチジョブ制御のためのモニタIIの2種のモニタ機能が用意された.いずれのモニタもバッチ処理,インクワイアリ処理,小規模なオンライン処理を行うことができた.モニタIIではメインとサブの2つのフレームが用意され,同時に2つの処理を行うことができた(図-1参照).
図-3 磁気ドラムヘの二重書きによる読み出しの高速化- (3)言語処理機能
- 事務処理用としてCOBOL,FOCUSが提供され,科学技術計算用にはFORTRANが提供された.提供されたCOBOLはCODASYL COBOL 1969版に準拠し,報告書作成用の命令(帳票ページの制御,集計,等)などが追加されていた.この報告書作成機能はFACOM 230-15のユーザ層には好評をもって受け入れられた.FOCUSは6種類の制御カード(紙テープからの投入も可)を使って事務計算プログラムを作成するプログラミング言語であるが,プログラミングというより,所定の用紙に記号をマークすることで作業をこなすという発想であった.その他の言語処理プログラムとして,コンパイラ形の記述形式を持ったアセンブラ言語であるSL-15があった.
- (4)通信機能
- 通信回線を利用を容易にするために,コーポレートと呼ばれるユーティリティ機能が用意された.
2. FACOM 230-10の基本ソフトウェア
FACOM 230-10ではOSとして独立したソフトウェアは提供されていなかった.基本ソフトウェアとしては,「かな文字COBOL」等の言語処理プログラム,分類と併合そしてコード変換を遂行する「アトム」と呼ばれたソフトウェアや入出力機器の並行動作制御を行うためのソフトウェアなどがあった.入出力機能などOS的な機能は,各処理プログラムに内蔵される形で提供された.たとえば,言語処理プログラムには入出力処理やリアルタイム処理のための基本ソフトウェアが組み込まれていた.入出力処理には,磁気ドラムファイルのランダムアクセスをサポートするソフトウェア等も含まれていた.
FACOM230-10は,「専任の計算機要員を必要とせず」という標語に代表される,使いやすさを開発コンセプトとした,コンピュータ利用の普及を目指して開発された小型機であった.その観点から開発されたのが,前述の「アトム」や「かな文字COBOL」である.
かな文字COBOLは,世界共通のプログラミング言語であるCOBOLを日本人向けにしたものであり,次の特徴を持っていた.
- 項目名(アイテム名)にかな文字が使えた
- リアルタイム処理のための機能が追加されていた
- 磁気ドラムファイルのランダム処理を可能にした