通産省は1981年に「科学技術用高速計算システムプロジェクト」(通称スーパーコンピュータプロジェクト)を開始した.このプロジェクトにより1990年代に予想される膨大な計算需要にこたえられるようなスーパーコンピュータを構築するための要素技術開発が9年間実施された.
デバイス技術についてはガリウム砒素(GaAs)素子とジョセフソン(JJ)素子の開発が行われた.MESFET型GaAs素子では4Kゲート10nsおよび2.6Kゲート0.7nsの論理素子,4Kビットアクセス時間1.5nsおよび16Kビットアクセス時間5.0nsの記憶素子が開発された.HEMT型GaAs素子では1Kゲート36psのバスドライバ用素子が開発された.JJ素子では論理素子として2チップからなる4ビットコンピュータ,8ビットのDSP(クロック周波数はいずれも1GHz以上)を作成された.メモリ素子では4Kビットアクセス580psのチップが開発された.
システム技術については並列処理システムの研究開発が行われ,データ駆動システムSIGMA-1,マルチベクタシステムPHIおよび衛星画像処理システムが開発された.
- a)PHI(Parallel, Hierarchical and Intelligent):本体HPP(High speed Parallel Processor)は4個の要素プロセッサを持ち,それぞれは高速ベクタ型スーパーコンピュータで,CMU(Common Mapping Unit)により並列に稼働される.記憶装置としては要素プロセッサのローカルメモリ,CSU(Common Storage System),LHS(Large capacity High speed Storage)が階層構造になっている.LHSは4GBの容量を持ち,プロセッサ側からは1次元ファイルにみえる.PHIの最大性能としては10GFLOPSを超えたことが実証された.
- b)衛星画像処理システム:SIMD, MIMD, およびそれらの混合の3種のサブシステムからなる.生データ処理用にはSIMD方式の4,096台の要素プロセッサからなるCAP(Cellular Array Processor)が開発された.画像高次処理用にはMIMD方式の,マトリックス状のネットワークで結合された8台の要素プロセッサからなるVPP(Variable Processor Pipeline)が開発され,高速化のためGaAs素子が試用された.高速表示用にはMIMDとSIMDによる高速3次元画像表示装置が開発され,一部にHEMT素子が用いられた.