【東京工業大学】PCクラスタPRESTO II

PRESTO IIは,科学技術振興機構(JST)のさきがけ(PRESTO)の研究費で,グリッドおよびクラスタ計算機研究のために東工大の松岡聡が開発した種々のPCクラスタのうち,最大のものである.その性能の検証のために,スーパーコンピュータの世界ランキングである“the Top 500”にも挑戦した.

松岡研でのクラスタ開発の歴史は以下のようであった:

1996年    Cluster I Sun SuperSparc WS 14台,ピーク性能0.7 ギガFLOPS
1997年    Cluster II PentiumPro PC 10台,同2 ギガFLOPS
1998年    PRESTO I Pentium II PC 64台,同22 ギガFLOPS
1999年    PRESTO II Pentium III×2 PC 64台,同64 ギガFLOPS

PRESTO IIは2000年にCPUをクロックアップし同102.4 ギガFLOPS,その後さらにCPUボードを付加し,200 ギガFLOPSになった.その写真を見るとPCケースを棚に詰め込んであるようだが,実際は1ケース当たり4 CPU,3物理ノードを詰め込む高密度設計となっている.その内訳は,2 CPUの共有メモリノードと,組込み用のPCIに刺さる初期のブレードサーバ2ノードである.また,高密度冷却と整備性を考慮し,様々な工夫を行い,HDDは低消費電力のノートブック用の2.5インチのものなどを利用,ネットワークでは(当時としては比較的大規模な)84ポートのスイッチで全ノードを接続し,かつそれらを複数用いて3並列に同時通信(トランキング)するようにすることにより,ネットワークの高速化を果たした.これらの工夫により,性能に比較して非常に小さい設置スペースを,効率の良い冷却を含めて実現し,当時としては大規模かつ高性能な並列計算機が大学の研究室レベルでも安価に作成できることを示した.

その後開発した後継機のPRESTO III(Athlon MP 1.6 GHz 2 CPU×256ノード= 512 CPU,ピーク性能1.6 テラFLOPS)は,2002年6月のTop 500でクラスタ計算機としては世界2位,スパコン全体としても世界47位に認定された.これらの技術的経験は,現時点で我が国最高性能のスーパーコンピュータであるTSUBAMEを含む後継の種々のクラスタやスーパーコンピュータの設計に生かされている.

(情報処理学会歴史特別委員会編「日本のコンピュータ史」(2010年,オーム社発行) pp.202-203より編集)


  
PRESTO II