【豊橋技術科学大学】SIMD型並列計算機SM-1

SM-1は1990年から1993年にかけ,湯浅太一を中心とするグループが豊橋技術科学大学に拠って開発したSIMD(Single-Instruction,Multiple-Data)型の並列計算機である.SMの名称はSIMDを意味すると同時に,協力を得た住友金属工業(Sumitomo Metal)のイニシアルである.SM-1は1,024台のPEを持ち,フロントエンドのSUN 4で制御されるコプロセッサとして動作した.各PEは8ビット演算のALU,128バイトの汎用レジスタ,いくつかの専用レジスタからなる.特製のLSIチップ1個に4PEを搭載,1ボードに16チップ,全体で16ボード構成である.1チップに4 MバイトのDRAMを付随させ,全体では1 Gバイトを持つ.SUN 4から送られたコプロセッサ命令はシーケンサでマイクロ命令列に変換し,これを全PEへ送り,並列実行する.マイクロ命令を変更すると,別の並列計算機に変容するようになっていた.

ソフトウェア的には,SUNのOSを利用,Unixがそのまま使えた.新たに開発したのはSIMDのシミュレータ,専用アセンブラと高レベル言語の処理系であった.高レベル言語は並列実行機能を持つC言語風であり,Gnu Cコンパイラを改造して作成した.

SM-1は2台試作され,1台は豊橋技科大で画像処理,素因数分解,並列Lispによる数式処理などに使用,もう1台は慶應大の安村研で並列Fortranの開発に使用された.性能的には32ビットの加算はPEでは860 K回/秒,全体では860 M回/秒と高性能であったが,浮動小数点演算のハードウェアはなく,マイクロコードで実装したため,性能は得られず商品化は見送られた.

(情報処理学会歴史特別委員会編「日本のコンピュータ史」(2010年,オーム社発行) pp.200-201より編集)


  
SM-1