ADENAは京大数理工学科の野木達夫が考案したデータ並列計算機で,1978年から1983年にかけて大学で試作した16マイクロプロセッサの実験機ADENA Iと,1984年から1989年にかけて松下電器との共同開発で完成した256プロセッサの実用機ADENA IIがある.ADENAの主たる目的は科学技術計算シミュレーションにおける2次元や3次元配列データの効率良い並列化とその言語表現の容易さにある.行列aijに対し, i についての逐次処理を j にわたって並列処理する行処理と, j についての逐次処理を i にわたって並列処理する列処理とを,必要に応じ適宜交互に行うことを並列計算の基本とする.
ADENA Iではプロセッサ(とローカルメモリの組)の1次元配列Piにそれぞれ行要素を持たせる処理状況と,同一配列Pjにそれぞれ列要素を持たせる状況を想定し,状況を切り替えるデータ編集(これをAlternating Data Editionという)のために2次元バッファメモリ配列Bijをおき,データ編集(転送)様式Pi⇔Bij⇔Pjを可能にした(完全結合).ADENA IIでは2次元配列プロセッサと3次元バッファメモリ配列を配置し,データ転送様式Pij⇔Bijk⇔Pjkを可能にした.これは直接的には3次元配列データを行処理,列処理に加え柱処理の3つの状況で並列処理を行う.また,適切な1個のプロセッサを仲介として2回の転送ですべてのプロセッサ間でデータを受け渡しできる準完全結合になっている.したがって,ADENA Iの処理様式も簡単にシミュレートできる.これらの動作を直截に表現する言語として,Fortranを拡張したADETRANを用意した.実用機ADENA IIは独自開発の64ビットプロセッサを256個,トータルなメモリを2ギガバイト持ち,1ギガFLOPSの実効速度を達成した.
(情報処理学会歴史特別委員会編「日本のコンピュータ史」(2010年,オーム社発行) pp.192-193より編集)