富士通のLisp言語高速処理用専用コンピュータである.1980年代の前半は人工知能の研究開発が世界的に活性化した.1982年に同社研究所(富士通研究所)により人工知能研究のシンボルとしてLisp言語の高速処理用専用コンピュータ“α(Alpha)”が開発された.その後,1985年にFACOM αとして商品化された(1984年7月発表).
当時Lisp言語の専用処理装置はスタンドアローン型が多かったが,FACOM αは高性能化に重点をおいて,ミニコンや汎用機に接続可能なアタッチ型(バックエンド型)の構成をとった.本機は以下の特徴を有した.
- (1)Lisp処理を行うCPU,主記憶 4〜8MBおよびマイクロプログラムロードや診断を行うSVP(Service Processor)で構成
- (2)ホストコンピュータとは汎用チャネル(BMC;Block Multiplexor Channel)で接続,そのためのアダプタをFACOM αに搭載
- (3)FACOM αには,以下の機能を搭載
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- インタープリタ,コンパイラ,標準関数,ガーベジコレクタ等のLisp言語処理
- ホストから送られたキャラクタ列をLispオブジェクトに変換したり,その逆を行う関数処理
- 最大8ユーザの同時動作機能
- (4)ハードウェアスタックの実装により高性能化(汎用マシンに比べ約6倍の性能を達成)
FACOM αは,人工知能の研究だけでなく,製鉄所の高炉診断エキスパートシステム等の実用システムに使用された.しかしながら,FACOM αの出荷台数は約30台にとどまり,ビジネスとしては成功しなかった.汎用プロセッサの性能向上は著しく,開発に時間がかかる専用マシンの優位性は非常に小さく,FACOM αの後継機は開発されなかった.