神戸大LISPマシンの試作ではLISPの高速実行向きアーキテクチャの研究,ビットスライスTTL LSIを使って研究室で十分高性能な計算機をつくること,そしてインタープリタのマイクロプログラム化手法の研究を目指した.システム名はFAST LISP.計算機名称はTAKITAC-7.
1977年にテーマが決り,1978年春から初夏にかけて,最初にマイクロプログラム化に適したLISPインタープリタの設計が行われた.ビットスライスALUとハードウェアスタックの使用を念頭に置いた.夏から秋にかけて,アーキテクチャ設計,回路設計,部品調達を行い,秋からプリント基板の半田付けを開始した.フロントエンドプロセッサのLSI-11(DEC社)により基板の動作試験をしながら製作を進め,1979年2月10日に完動した.火入れ後1週間ですべてのバグが取れ,その後は安定に動作し,約1週間で基本性能データ収集を行った.開発期間は約1年で,その後研究用に数年稼動し,今は静態保存中.
開発には瀧和男(当時,修士課程),金田悠紀夫(当時,工学部助教授)などが参加した.
高性能のTTL LSIが売り出され,研究室でも高性能な実験機が作れる時期であり,LISPマシンのテーマに対して,インタープリタをすべてマイクロプログラム化する発想は,上記の経過から自然に生まれた.高速化のためのハードウェアスタックには,インテルの70nsec 4k-bit SRAMを16個使ったが,これが1個1万円もして,宝物のように扱われた.主メモリアクセスには現在のRISC型CPUで使われている遅延ロード機構を実装しており,また56ビット幅のマイクロプログラムでインタープリタを実行する様子はほとんどVLIWであった.マイクロ命令サイクル300nsecのインタープリタが,当時の汎用大型計算機上に実装されたLISPコンパイラと同程度の速度性能を示した.TAKITAC-7のアーキテクチャは後のFACOM-αとNTTのELISが継承した.
(金田悠紀夫,瀧和夫,和田耕一,田村直之:「神戸大LISPマシン,PROLOGマシン」,情報処理,Vol.43,No.2,pp.114-115(2002)より編集)