【NTT】 DIPSの通信管理プログラム(CMP)

電電公社の計算機であるDIPSは,当初より,データ通信サービスで利用されるオンライン計算機として開発が進められた.通信管理プログラム(CMP: Communication Management Program)は,ネットワークを構成するノード(計算機および端末装置)間の通信を効率良く行うためのプログラムとして研究実用化を開始した.以降,通信管理プログラム(CMP)は,(1) CMP-1以前,(2) CMP-2,(3) CMP-10,(4) CMP-11,(5) CMP-12(昭和63年〜)の5つのフェーズで実用化が進められた.

(1)CMP-1以前
DIPS-103OSの時代には,回線対応処理(接続/切断,文字の組立/分解等)を,DIPS通信制御処理装置(CCE)の内蔵ファームウェアで実現し,伝送制御手順に関わる処理を本体OSで分担する方式を採用していた.しかし,この方式では収容端末種別の増大,電子交換機(DDX)パケット交換網等の経由網種別の多様化などに対応して,CCE内蔵ROMの書き換えが必要となり,迅速な対応が困難であった.
 このため,通信制御専用のプロセッサであるDIPS-7300通信制御処理装置(CCP)の実用化を,昭和47年に開始した.この7300CCP上で走行する最初のソフトウェアとして,CCEとまったく同様の機能を実現するキャラクタバッファ方式プログラムを昭和49年に試作し,それと並行して前置処理装置(FEP)として本格適用したメッセージバッファ方式プログラムの実用化を昭和48年11月に開始した.メッセージバッファ方式プログラムの実用化は,DEMOS-Eで計算機間通信サービスを提供することを狙いに策定された105OS計画と同期して進めた.
 昭和50年になってから,104OSにおいても,FEP方式を導入することが決定され,その実現に向けて検討を開始した.CMP-0は,DCNAO版に準拠した製品であり,53年度末に実用化を完了した.本製品は,エンドーエンドプロトコルの実用化に加え,無手順端末の収容などの機能拡充を施した.CMP-1は,DCNA1版に準拠した製品であり,54年度末に実用化を完了した.本製品は,商用のパケット交換網の収容に加え,中継機能の拡充などを実施した.

(2)CMP-2
CMP-2は,ハードウェアとして7300CCPに加え7400系CCPをサポートし,適用形態として,FEPに加え遠隔処理装置(RP)をサポートすることとして,昭和53年に実用化を開始した.
 従来,トランスポートレベルまではDCNAに準拠し,CCP上で実現していたが,その上位プロトコルは,DIPS独自のものを設定し,ホスト上で実現(104OSの論理端末アクセス法)していた.CMP-2では,ホスト上で走行する通信アクセス用プログラムについても,DCNAに準拠して実現することとし,上位プログラムにDCNA準拠のアクセス法を提供することとした.その後,このアクセス法を利用して,DCNA高位プロトコル処理パッケージ(ファイル転送,メッセージ転送,仮想端末,データベースアクセス等)を順次実用化した.
 CMP-2の実用化は,昭和57年度末に完了した.

(3)CMP-10
CMP-10は,動作するハードウェアを従来のCCP(7300CCP,7400系CCP)に代えDIPS小型プロセッサ(DIPS-V20)とし,ネットワーク分散システムを実現することを狙って昭和56年4月に実用化を開始し,昭和58年度末に完了した.
 CMP-10では,通信管理機能をホスト(DIPS小型プロセッサ)上に統合して実現するため,通信管理機能の性能向上を図る必要があった.このため,通信制御機能のICAファームウェア化,機能単位から処理単位へのモジュール構造の変更,OSおよびICAとのインタラクション削減などの構造整備などにより,性能向上を図ることとした.
 また,基本形(ベーシック)手順端末の収容ノードでの仮想化による網内プロトコルのDCNAへの統一,DCNA仮想端末プロトコルの採用による上位プログラムインタフェースのDCNAへの統一などDCNA化を推進し,ネットワーク分散システム構築の容易化をすすめた.

(4)CMP-11
CMP-11は,市場競争力を高めるために,大規模ネットワーク構築およびサービスの多様化,高度化に向けた機能拡充,コンピュータネットワークの経済的な構築を可能とする機能拡充,異機種計算機間の相互接続性機能の向上および高信頼システムの構築を狙い,昭和57年10月に実用化を開始した.
 CMP-11はリリース1,2,3,4-1,および4-2の5段階に分けて実用化が進められた.
■リリース1(昭和57年10月実用化開始,昭和60年3月)
 DIPS-Vシリーズによるネットワーク分散システムの規模拡大およびサービスの多様化,高度化に向けた機能拡充をねらいとして開発した.
 大規模ネットワーク構築機能の実現のために,収容可能ノード数を増大した.また,非会話系手順及び民需手順(J手順,全銀協手順)等サポート手順の拡大およびDDX回線交換網,ファクシミリ網等接続できる網種別を拡大した.
■リリース2(昭和58年6月実用化開始,昭和61年3月完了)
 複数のホスト,FEPからなる複合構成システム形態,従来のCCP(通信制御処理装置)との混在構成形態,およびスタンドアロン形態へ適用でき,ネットワーク多様化への対応および高信頼システムの構築を目的としてDIPS-II/5Eシリーズ用に開発した.
 ネットワーク多様化への対応として,LAN収容端末との交信機能,プロトコル変換支援機能,DDX網との接続機能(80年版X.25)等を拡充した.
 また高信頼システムの構築機能として,複合構成システムでホスト・FEPの高速再開処理機能を実現し,端末利用者にホストダウンを意識させずに交信処理を継続し,FEP障害に対しては再開始時間を短縮化した.
■リリース3(昭和59年10月実用化開始,昭和62年9月完了)
 OSIプロトコル準拠の端末,計算機との接続を可能とするため,国際標準として規定されたOSIプロトコルに基づいて,レイヤ3からレイヤ5までを実現した.また,経済性の高いシステム構築を可能とするため,回線速度1.5Mbps以下のスーパーディジタル回線直接収容機能をサポートした.
■リリース4-1(昭和61年4月実用化開始,昭和63年6月完了)
 異機種接続性能向上を図るため,OSIプロトコル処理機能を拡充するとともに,LAN経由のTCP/IPプロトコルをサポートした.さらに統合RC向け各社固有手順をサポートし,接続できる民需端末の範囲を拡大した.
■リリース4-2(昭和62年6月実用化開始,平成元年12月完了);
 ISNネットとの接続では,ISNネット64/1500に直接接続できる機能をサポートした.また,経済性の高いネットワークを構築できる機能として,6Mbpsスーパーディジタル回線直接収容機能をサポートした.
 さらに,既存ネットワークを利用した大規模なネットワークを構築できるようにするため,アドレス体系の異なる複数のDCNAネットワークを相互に接続できるゲートウェイ機能を実現し,既存のネットワークをそのまま有効利用して,容易にネットワークの拡大を図ることができるようにした.
 CMP-11の実用化は,平成元年度末に完了した.

(5)CMP-12
CMP-12は,通信システムの高度化,広域化,マルチベンダ化への対応を図ってDIPS通信管理機能をいっそう強化するとともに,運用操作性の改善ならびに長期維持管理に対応する機能の充実を狙い,昭和63年10月より,リリース1,2,3の3段階に分けて実用化された.
■リリース1(昭和63年10月実用化開始,平成2年12月完了)
 INSネットのHチャネル(384Kbps)通信およびDチャンネルでの通信サポート,OSIのセションレイヤのバージョン2プロトコルのサポート,および大規模ネットワーク化にむけたネットワークアドレスの40桁化をサポートした.
 また,システム生成・試験および運用時操作の簡易化ならびにシステム情報等の変更/収集を容易化した.
■リリース2(平成元年10月実用化開始,平成4年4月完了)
 INTAPの最新規定,およびMEA規定の動向に合わせて最新のOSIプロトコルを実装した.またTCP/IP系プロトコル処理機能を拡充した.また,ネットワークの大規模化および頻繁な構成変更に対応するために,加入者チェックレス機能を提供し,SGを簡易化した.
 さらに,長期維持管理作業を効率化するため,ガード強化および品質保証試験の充実により品質を向上させるとともに,障害情報の効率的収集機能を実現した.
■リリース3(平成3年4月実用化開始,平成5年4月完了予定)
 システムのマルチベンダ化に向け,異機種接続性を向上させるとともに,維持管理の効率化を狙いとして現在運用操作性の改善を保守機能の充実に重点置いて開発を進めている.