【日本電気】 ACOS-4/MVP

日本電気は1979年7月にACOS-4/MVP(Multi Virtual Processor)の出荷を開始した.
ACOS-4/MVPは,先に出荷された中型機向けオペレーティングシステムACOS-4と一貫した思想で開発され,かつ,上位互換性を保った大型,超大型機向けのオペレーティングシステムである.ACOS-4に比べ,仮想空間方式の変更やシステム並行処理の向上などの基本システム制御を強化し,さらに,対話処理やオンライン処理パッケージなどのマルチユーザ利用の中核機能を実現したものである.ACOS-4/MVPは,中大型機のシステム450,システム550,超大型機のシステム800,システム750,システム950のシステムに搭載された.

新しく採用したアーキテクチャ,および主な機能についての特長は以下の通りである.

1.アーキテクチャの特長
(1)ページ化セグメンテーションによる仮想空間方式の採用
セグメンテーションとページング機構を併用したもので,二次元アドレスを持ったセグメントをさらに等長のブロック,すなわちページに分割した.ACOS-4/MVPではページサイズは2KBを採用した.数種のページ状態を定義し,きめ細かなメモリ管理を行うことでメモリ使用効率を向上させた.
(2)動的アドレス変換の採用
CPUがチャネルプログラム中の論理アドレスを実アドレスに変換しなくても,入出力プロセッサが論理アドレスに書かれたチャネルプログラムを直接実行する.これにより大規模システムにおける入出力処理の効率化を実現した.
(3)多重プロセッサによるシステム並行処理の強化
ACOS-4/MVPでは同時に複数のタスクが実行でき,高い並行性を得ている.これは,オペレーティングシステムの処理の分散化(ユーザタスクの延長でOSが動作)による並行性の向上と,仮想プロセッサの概念がマルチプロセッサのハードウェアアーキテクチャとマッピングされ,並行動作性をより高めている.さらに,ACOS-4/MVPでは,システムタスクでの処理能力を向上するために,処理プロセスの複数化を行った.


図-1

図-1

また,ACOS-4/MVPでは多重プロセッサの能力を最大限に引き出すために,オペレーティングシステムの大部分のルーチンをリエントラント化し徹底的な処理の分散化を行った.

2.機能の特長
(1)対話情報処理(タイムシェアリングシステム)
遠隔地の端末からシステムと対話しながら容易にシステム開発,データ検索/報告書作成などの各種業務を実行でき,端末利用者はあたかもセンタコンピュータを専有しているかのごとく利用できるようになった.PWSS(Personal Work Station System)を中規模システム向け,ATSS(Advanced Time Sharing System)を大規模システム向けに提供した.
(2)オンラインリアルタイム処理の構築を支援するDB/DCパッケージ
業務処理に必要なデータベースとして統合的に管理し,これを遠隔地の多数の端末から同時に利用するオンラインデータベースシステムで,従来ユーザが作成していたマルチタスクのオンライン制御や,ジャーナル/リカバリ制御などをOSの一部としてVIS(Versatile Information System)で実現した.
(3)動的資源管理DRM(Dynamic Resource Manager)によるスループット,応答性能向上
DRMは,システムで稼動する対話情報処理,オンライン処理,バッチなどの各次元で使用されるシステムの資源を集中管理し,さまざまな負荷の動的変動に対処して目標性能達成のための制御を行うもので,性能や応答性の向上とともにシステム処理能力の向上を実現する.
DRMでは,システムで稼動するジョブをグループ(ドメインと呼ぶ)に分けてサービス量(メモリ量,入出力装置資源,CPU)の配分を制御し,さらに,ドメインを細分化した応答クラスの単位で目標応答時間と目標達成率を管理した.応答クラスは,対話情報処理ではATSSのコマンドクラス,オンライン処理ではVISのトランザクションクラス,バッチ処理ではジョブクラスをマッピングさせ,業務の特性に合わせたサービス配分を可能とした.


図-2

図-2

(4)利用者管理と資源利用者管理による機密情報保護
システムを利用する利用者をあらかじめ登録し,その利用者ごとに対話情報処理やDB/DCなど利用許可する処理形態を設定し,実際の利用の際にチェックする利用者管理をUAF(User Administration Facility)で実現.また,ファイルには利用者ごとにアクセス権を設定させ,誤解や悪意によるアクセス侵害の防止をRUAF(Resource and User Administration Facility)により実現した.
(5)ソフトウェア障害処理の基盤をサポート
ACOS-4/MVPでは,マルチプロセッサ構成システムの代替CPU回復機能,システムダウン時のシステム自動再立上などのハードウェアによるRAS機能に加え,ソフトウェア障害についても運用への影響を最小にすべく,機能/プロセスレベルでの回復,障害個所の局所化などの対策を講じた.
ソフトウェア障害に対し,プロセス/ジョブの異常終了やシステム全体の停止を避けるために回復を行っており,以下の3種類の基盤を構築した.

例外処理EXIT ソフトウェア障害による例外発生時の処理を,ユーザ自身が組み込むことができる
機能回復プロシージャ 基本OSの機能を中心とした回復を行うもので,各機能の目的や実装方法に応じてそれぞれの回復範囲,回復方法を定義する
プロセス回復プロシージャ 上記2つの回復に失敗するなど,プロセスアボートとなるような条件に対してプロセスの回復を試みるもので,単一プロセスに閉じた復旧を定義する