電電公社(NTT):度数計フィルム読取装置

度数計フィルム読取装置は,料金度数計を撮影したフィルム上の指数文字(数字)を高速,高精度に読み取るOCRであり,1973年に開発され,1975年から電話料金業務に適用された.

開発の背景として,1960年代当時,電話加入者ごとの電話利用度数は電話局に置かれた度数計(写真:度数計と指数文字の配列)で計数されており,料金計算は,度数計を写真撮影して印画紙に焼き付け,それを見てキーパンチャが入力し,前月分を差し引いて当月分とするという方法で行われていた.入力に際しては,課金ミスをなくすため,同一データを2人のキーパンチャが入力し,突合を行っていた.1960年代後半に入ると,電話は急速な勢いで普及し,人手に代わって高速・高精度・低コストで電話利用度数を入力する手段の開発に迫られていた.これには,当時,頸肩腕症候群等の職業病が社会問題化しキーパンチャの大幅増員は困難であったという事情もある.

このような背景の下,フィルムに撮影された度数計文字を読み取る度数計フィルム読取装置を1972年に開発した(写真:度数計フィルム読取装置の外観).同装置では,フィルムは機械的に駆動され,フィルムを透過した光を1次元の受光素子アレイが受けるという形でスキャンされる.度数計の指数文字はOCR用でないことから0,6,8,9等類似文字が多く,また,フィルム画像には汚れや欠け,ボケ等の雑音が多い.そこで,雑音に強い2種類の識別方式(重み付け重合せ識別法,外郭特徴抽出法)を開発し,認識結果を突合して誤認識を低下させた.また,フィルム上の文字部分,度数計のカバー部分を正しく検出するために,異なる2つの2値化閾値を適用するという手段も講じている.これらの結果,従来の人手によるさん孔・検孔入力に代替可能な精度を実現できた.

処理能力としては,フィルム品質に大きく依存するが,月間100時間の稼働で,約50~70万加入分の入力が可能である.同装置は1975年から実運用が始まり,全国の電気通信局に導入されて行った.そして,電子交換機が行き渡るまでの間10年以上にわたって稼働を続け,加入者電話料金計算業務の省力化,経済化に貢献した.


 
度数計と指数文字の配列度数計フィルム読取装置の外観  

OCRの解説文では,一般社団法人電子情報技術産業協会発行の「OCRカタログ用語集(第2版)」の用語を使用しています.各用語の意味については,本用語集をご参照ください.