【三菱電機】 MELCOM 1101

1960年に完成した三菱電機最初のディジタルコンピュータであり,科学技術計算を主たる目的としていたMELCOM 1101は,1語33ビット,スタティック論理,2進直列,ストアードプログラム式のコンピュータで,全回路トランジスタ化されていた.クロック周波数は,約214kHz.論理回路素子として,ゲルマニウムトランジスタ約3,500個,ゲルマニウムダイオード約4,000個が使用され,エポキシプリント基板のパッケージ19種類,約750枚にて実装されていた.

基本構成は,演算制御装置,磁気ドラム記憶装置,制御卓から成り,制御卓には,読取速度200〜400文字/秒の光電式テープリーダ2台,穿孔速度1,200字/分の紙テープパンチャ1台,入出力タイプライタ1台,表示制御盤が搭載されていた.外形寸法は,つぎのとおり.

演算制御装置 1,800mm(H)×700mm(W)×800mm(D)
磁気ドラム記憶装置 1,100mm(H)×1,000mm(W)×800mm(D)
制御卓 750mm(H)×1,650mm(W)×800mm(D)

さらに,光電式テープリーダ2台,紙テープパンチャ3台,磁気テープ記憶装置4台を増設することができた.電源は,AC 100V(±10%),50/60Hz(±2Hz),単相,約6A,および,AC 220V(±10%),50/60Hz(±2Hz),3相,約2A.ビルディングブロック方式の採用により,演算高速化装置FLORA(Floating Point Arithmetic Accelerator),ディジタル微分解析用付加装置DDA(Digital Differential Analyzer)を付加することによって機能を大幅に増大することができるようになっていた.

演算装置は,主制御部の下で,入力用,出力用,特殊演算用の各副制御部が独立して動作できるようになっていた.これにより,時間がかかる入力処理,出力処理,さらに,乗除算やシフト,ノルマライズなどの特殊演算を,加減算や判断などと並行して実行でき,プログラミングの工夫により演算時間を短縮することができた.たとえば,インタープリティブ・ルーチンINFO-3000においては,浮動小数点の乗算や除算の所要時間を2/3〜1/2に短縮できた.

メモリには,直径約30cm,長さ約30cm,回転数3,600rpmの遅延線形磁気ドラムを使用し,容量は約4,000語であった.磁気ドラムは,独立した読み出しおよび書き込みのヘッドをそれぞれ約70個持ち,下図に示すように,読み出された情報は,外部回路で整形増幅されて直ちに書き込みヘッドから再書き込みされ,前の記憶位置は読み出した直後に消磁された.これにより,回転速度に関係なく,待ち時間の短いラインを作ることができた.磁気ドラムは,一般メモリとして,100語/ラインが40本(平均アクセス時間7.8ms),高速メモリとして,4語/ラインが8本(平均アクセス時間0.31ms),2語/ラインが6本(平均アクセス時間0.16ms),1語/ラインが2本(ランダムアクセス)から構成されていた.


図 磁気ドラム原理図

図 磁気ドラム原理図


機械語は,1語33ビットで,形式は次の通りであり,情報の源および行先のライン番号(SおよびD)と,ライン内の語の番号(T)とでメモリのアドレスが決められた.

機械語の構造
記号値の範囲(カッコ内は10進)機能
S/D0 または 10:単長数値演算,1:倍長倍長演算
CH0000〜1111(0〜15)命令
D000000〜111111(0〜63)情報の行先のライン番号(50以上は特殊な意味)
S000000〜111111(0〜63)情報の源のライン番号(50以上は特殊な意味)
N0000000〜1100011(0〜99)次に実行すべき命令の位置
TM0 または 1演算ループ中断のマーカ
(トラッピングモードで計算機を動作させたとき,
1ならば,命令実行後アイドル状態となる.)
T0000000〜1100011(0〜99)ライン中の語の番号
I/D0 または 1命令実行の待ち時間の有無
(1なら,命令読み取り後,ある時間を待って実行)
(注)DおよびSの値の意味は次のとおり.
00〜39:ライン00〜39(100語/ライン)
40〜47:ライン40〜47(4語/ライン)
48,49:ライン48,49(2語/ライン)
50,51:FLORAのスタティックレジスタ(ER,FR)
52,53,54:乗除算レジスタ(MQ,ID,PN)
55:入力レジスタ/出力レジスタ
56,57,58:累算レジスタ(AR I(単精度),AR II(単精度),AR III(倍精度))
59〜63:その他

数値は,単長固定小数点(符号+32ビット),倍長固定小数点(符号+65ビット),単精度浮動小数点(符号+指数部8ビット+仮数部24ビット),倍精度浮動小数点(符号+指数部8ビット+仮数部57ビット)の4種類であった.
浮動小数点演算は,基本構成では,INFO-3000と呼ばれるインタープリティブ・ルーチンにて行われるが,浮動小数点演算,乗除算の回路およびインデックス・レジスタ(7ビット4個)をハードウェアで持つ演算高速化装置FLORAを付加すると,固定小数点も含め,次表のように演算時間が短縮された.

FLORAによる性能向上
  基本構成 FLORA
(単位:ms)
単長固定小数点 加減算 0.16 0.16
乗算 10 0.62
除算 10 2.0
倍長固定小数点 加減算 0.31 0.31
乗算 20 1.2
除算 21 7.5
単精度浮動小数点 加減算 約25〜40 0.62
乗算 約25 0.62
除算 約25 1.6
倍精度浮動小数点 加減算 約40〜55 1.2
乗算 約40 1.2
除算 約40 6.5

また, FLORAは,データをブロックで処理できるという遅延線形磁気ドラムの特徴を利用し,グループ演算として,メモリの2つのライン内の対応する語毎に加減算や乗算を行う機能や,指定ライン内における最大値や指定値を超える最初の値を見つけるテーブル・ルッキングの機能も持っていた.

ディジタル微分解析用付加装置DDAは,微分方程式を解くための専用装置で,変数の微小変化を量子化し,区分求積の形でディジタル量の積分を行った.遅延線形磁気ドラムのメモリを積分器レジスタとし,論理回路を時分割で使用することにより,100個の積分器を備えることができた.アナログ計算機と同様に方程式の形を模擬することによりプログラムできるので,汎用ディジタル計算機ではプログラムが困難であった大規模な微分方程式も簡単に効率的に解くことができた.


 
MELCOM 1101形ディジタル電子計算機MELCOM 1101形ディジタル電子計算機(国立科学博物館所蔵)