【日立・国鉄】 MARS-1

「みどりの窓口」で親しまれているJR座席予約システムの最初の原型となったMARS-1 (Magnetic-electronic Automatic Reservation System 1)は,1950年代後半に国鉄鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)の穂坂衛,大野豊らにより計画・設計された.1958年日立製作所に発注され,戸塚工場で谷恭彦らを中心として製作された.

このシステムでは座席用ファイルに40万ビットの磁気ドラム記憶装置が採用された.また,座席パターンの高速な検索と更新のために,1列車の各座席が空いているかどうかを示す900ビットのレジスタ2個が使用されたのを始めとして,端末との通信,予約通知書の印刷,CRT表示用などに大きな容量のレジスタが使用された.これらのレジスタ類は磁気ドラムの表面を遅延線として用いる再生循環レジスタとして実現されており,フリップフロップの数を大幅に減らすことに成功した.

ハードウェアの論理部は,ダイオードによるAND-ORゲートと,クロックに同期するセット,リセット形の静的フリップフロップが主体であった.中央装置1台には,トランジスタ1000個,ダイオード4500個の他,当時大電力用のトランジスタがなかったため真空管70本が使用された.磁気ドラムは,径300mm,長さ300mm,回転数3000rpm,全トラック数200で,うち10トラック分が循環レジスタに使用された.

信頼性の確保のため,通信系の誤り検出はパリティチェック,中央装置は二重系並列運転による照合チェック,ファイル更新にはレコードのサムチェックが行われた.

1959年,東京駅構内に中央装置が設置され,これを用いて1960年2月より東京−大阪間の特急列車の座席予約業務が開始された.「つばめ」,「はと」の3,600座席,15日分を対象とし,窓口装置は東京地区10ヵ所に設置された.翌年には名古屋駅,大阪駅にも設置されサービス範囲が拡大された.初期10ヶ月間の稼働率は99.86%,以後は99.95%以上という実績を残した.

当時,米国の航空会社で離着陸区間ごとの人数をオンラインで予約管理している例はあったが,航空機に比べて乗降車駅の多い列車で,座席位置まで含めた予約管理を実現したのは世界でも初めてであった.


開発当時のMARS-1MARS-1中央処理装置MARS-1中央制御盤
 
MARS-1中央入出力装置MARS-1 フリップフロップ・プラグイン