【NTT】 CTRON

1984年電電公社(現NTT)研究所においてソフトウェアのモジュール化議論がなされ,特に交換機のソフトウェアと情報処理用ソフトウェアの共通化の観点から,DIPS,DEXソフトウェアの共通運用の可能性の議論がなされてきた.これらの議論を踏まえて1985年共通OS研究に着手し,OSのAPIによって,プロセッサアーキテクチャの相違を吸収して,アプリケーションを含めてOSプログラムそのもののモジュール化にも寄与することを目的として,できる限り低位のレベルでOSインタフェースを標準規定することを目標に検討が開始された.

併せて,交換機と情報処理用プロセッサの共通化を狙いとしたINSCプロセッサ研究に着手し,LSI内製化を含めて議論されたが,交換機はベンダの得意とするプロセッサチップをベースに構成可能とし基本アーキテクチャは共通とする方式として検討が開始された.

いくつかの関連の標準化動向を踏まえた上で,リアルタイム特性に優れていること,標準化の俎上に載せていけるポテンシャルを持っていること,NTTの狙いとしている交換処理,情報処理のいずれにも適用可能性を持っていることなどの観点から,民間のコンソーシアムとして立ち上げ,不偏不党の立場にあったTRONプロジェクトで検討が進められつつあったリアルタイムOS/APIをベースに通信処理に適用可能なリアルタイムOSインタフェース(CTRON)の規定検討を進める方針が決定された.

CTRONインタフェースでは,当初の目論見通りOSインタフェースの階層的な規定を行い,下位のOSインタフェースではプロセッサアーキテクチャの相違を吸収し,上位OS機能プログラム自体の流通性の確保とともに,アプリケーションプログラムの流通性の確保を可能とするAPI規定を進めることとなった.

このCTRONの基本アーキテクチャとOSインタフェースは,1985年から検討を開始し,最も下位のOSインタフェースである基本OSインタフェースの第一版を1986年早々に公開した.上位OSインタフェースは拡張OSインタフェースと呼び,1986年から1988年にかけて次々と公開されていった.

CTRONの狙いである,上位ソフトウェアの流通性を確保するためのインタフェース規定の検討と並行して,実際に異なったプロセッサからなるシステム間で上位ソフトウェアの流通性が真に可能かどうかの検討を,実験を通して実施することとした.この実験は東京大学との共同研究の形で実施され,駒場のキャンパス内に実験施設を構築し,1988年から1989年にかけて異なるプロセッサによるプラットフォーム間の移植実験などが実施された.

一方,1986年にはNTTにおいてはCTRONインタフェースに基づくソフトウェアモジュール化の推進の促進に向けて,それぞれDIPS,DEXのプロセッサの上で実装に向けた開発が計画され,交換研,情報研の両者で並行して開発が進められ,DEX版CTRON基本OSは数千ユニット導入された.また,DIPSにおいても,UNIXインタフェースのカーネル部分として用いられるとともに,全銀RCのエンジンとして用いられた.リアルタイム特性を活かしたOSインタフェースを採用したことから,きわめて高性能なシステムが構築された.

また,社内VAN向けにTANDEM社のプロセッサ上にもCTRONが構築され,拡張OSが移植された上で商用システムとして導入された.


  
CTRONパンフレット