【富士通】 OSIV/ESPIII

OSIV/ESPIII(*)は富士通の中型汎用オペレーティングシステム(以下OS)であり,システムOA (Office Automation)を実現する中型コンピュータシステム用のOSとして1984年6月に発表された.OSIV/ESPIIIは,「使いやすさ」「作りやすさ」「コンピュータとパーソナルコンピュータ(以下PC)との連携機能」を一層充実させ,情報処理の拡大と高度化に応えるOSであった.
以下に,OSIV/ESPIII開発の背景,OSIV/ESPIIIの特長および機能強化について述べる.

*:ESPIIIは,Effective System Products IIIの略.

1. OSIV/ESPIII開発の背景

富士通は中型汎用OS OSIV/F2をベースとするOSIV/ESP V2でOA (Office Automation)の中核コンピュータシステムを提供した.一方,コンピュータハードウェア技術の進歩は目覚しく,1987年3月に発表されたFACOM M-730では最大4CPUまでのマルチプロセッサや最大45メガバイトの主記憶といった大型機並みの拡張性を有しており,OSIV/ESP V2のエンハンスが期待されていた.また,OSIV/ESP V2で先駆けて提供したOA機能やPC・ワークステーションとの連携機能は,大型機でもニーズが高まっていた.このような課題解決のために上位OSのOSIV/X8へのOS統合の容易性と,マルチプロセッサ,31ビットアドレスサポート,OSIV共通ミドルウェア利用を可能にしたOSIV/ESPIIIが開発された.
これにより当時のMシリーズ用OSは,OSIV/F4 MSPOSIV/X8 FSP,OSIV/ESPIIIの3種類となった.

2. OSIV/ESPIIIの特長

中型汎用OS OSIV/ESPIIIは,以下の特長を有した.

(1) オフィスワークの効率化
ますます増大するオフィスでの多様な情報を効率よく処理するため,当時すでに4万台の販売実績を持ったOAパソコンFACOM 9450-IIとの連携により,オフィス業務処理の効率を大幅に高めるOAP(OA Products)を提供した.
OAPはOAP/BASE,OAP/SERVER,OAP/MAILの3つの製品から構成された.これらにより,パソコン情報の有効利用(パソコンが持つ大量情報のホストでの管理およびパソコン間での情報交換),ホスト情報の有効活用(基幹業務で蓄積された情報の個人利用やセクション間での共同利用)およびホスト機能の有効活用(高速プリンタによる大量印刷や電子メールによる迅速な情報伝達)を行うことができ,オフィス業務の生産性向上を実現した.
(2) 情報の高度利用
DSSIII(extended Decision Support System III)の提供により,従来の経営トップ層に対するデシジョンサポート処理の概念を拡大し,幅広いエンドユーザの問題解決を支援した.DSSIIIは,DSSIII/MANAGER,DSSIII/ANALYST,DSSIII/ADVISERの3つの製品で構成され,実用的で直ぐ役立つシステムから,企業モデルによるシミュレーションを行うレベルまで段階的導入が図れた.
(3) 基幹業務処理の容易な開発と運用
以下に示す機能の提供により,基幹業務処理の容易な開発と運用を実現した.
- リレーショナル型データベースDB/E III (Data Base/E III)
多種多様な情報を整理・統合して各種業務に有効活用
- マルチメィア処理を可能とするための拡張を行った日本語情報システムJEFII
- システム開発支援ツールADAMS/E (Application Development And Management System/E)
- 統一された制御言語CL (Control Language)により易しい操作でシステムを運用する機能
- 分散処理ネットワーク

3. OSIV/ESPIIIの機能強化

OSIV/ESPIIIは,1984年6月に発表された後,2回の大きな機能強化が発表された.1987年3月には最大4台までのマルチCPUのサポート,1988年10月には仮想記憶空間を256メガバイトへの拡張やCPU性能のカバーレンジの拡大などが発表された.
OSIV/ESPIIIが先駆けて提供したオフィスワーク処理機能や基幹業務で利用可能なリレーショナルデータベースなどは,Mシリーズ共通製品として強化され大型汎用OSへも展開された.
OSIV/ESPIIIは,1990年11月に発表された後継OS OSIV/XSPに引き継がれた.
表 OSIV/ESPIIIの機能強化
発表時期 主な特長 Version
/Level
提供時期
1984年6月
・中型汎用OS OSIV/ESP V2の後継OSとして発表
-中型汎用コンピュータM-310E,320E,330EおよびM-340R,340S,340をサポート
-M-310E,320E,330E内蔵の磁気ディスクをサポート
-OAP(OAP/Base,OAP/Server,OAP/Mail)
-DSSIII
-DB/E III,ADAMS/E,日本語JEFII,分散処理ネットワークのサポート
V10L10 1984年11月
1987年3月
・OSIV/ESPIII強化
-中型汎用コンピュータM-730モデルグループの最大4CPUまでのマルチプロセッサをサポート
・Mシリーズ共通製品の提供
-異機種コンピュータの国際標準規格OSIに準拠したOCSF(OSI Communication Support Facility)を提供
-ホストコンピュータやワークステーションに加え,通信機器も一元管理し,高信頼ネットワークを実現する統合ネットワーク管理システムCOMSの提供
V10L20 1987年10月
-
・AIM V12の機能強化(OSIV/F4 MSP,OSIV/X8 FSP,OSIV/ESPIII共通)
-表示ファイルのサポート(TSS/AIFとAIMの画面編集処理の統合,FACOM KシリーズおよびFACOM G シリーズとの共通化)
-簡易オンラインおよびオンライン基幹業務のプロトタイピングを実現する AP/EF(*1),AP/DF(*2)
-帳票の統合配信サポート APS(*3),
-表示ファイル機能を支える高級言語 COBOL85
・ホストとワークステーションの連携機能 LINKSERV -DSM(*4),DRMS(*5),CJMS(*6),DTS(*7)
V10L30 1987年6月〜
1987年12月
1988年10月
・OSIV/ESPIII強化
-仮想記憶空間を16メガバイトから256メガバイトに拡大
-大型汎用コンピュータFACOM 760/10までサポート機種を拡大し,同一OSで約14倍までの性能をカバー
-リレーショナル型データベースDB/E IIIを強化(論理ファイルの動的定義機能,インデックス遅延保守機能)
V20L10 1989年6月
*1 AP/EF:Application Program Environment/Execution Facility
*2 AP/DF:Application Program Environment/Development Facility
*3 APS:Advanced Printing Subsystem
*4 DSM:Distributed System Mnager
*5 DRMS:Distributed Resource Management Support
*6 CJMS:Computer Network Job Management System
*7 DTS:Data Transfer Service

 
FACOM OSIV/ESPIII 手引書 基本システム編 (表紙)FACOM OSIV/ESPIII 手引書 基本システム編 (内容一部)