【三菱電機】 AOS,DPS

1974年に発表されたMELCOM80モデル31で,初めてオペレーティング・システムが搭載された.モデル31では,シングルタスクOSであるAOS(All-round Operating System)が搭載され,その後,1977年発表のモデル38では,AOSをマルチタスク化したDPS(Dynamic Processing System)が開発され,機器構成などによってAOSとDPSを使い分けることができるようになった.いずれも16ビット・アーキテクチャである.オペレーティング・システムを構成する要素は,処理プログラム,管理プログラムおよびシステム生成の3種類に大別される.DPSのシステム構成を図に示す.


オペレーティングシステムDPSの構成

オペレーティングシステムDPSの構成

(1)ジョブ管理プログラム
DPSには仮想空間という考え方はなかったが,64キロバイトの物理空間を分割し,最大3区画を設け3種類の処理形態(バッチ処理,オンライン・インライン処理,スプール・シンビオント処理)を同時に実行することができる.このうちオンライン・インライン処理では,スワップによってプログラムを入れ替えることにより,複数のプログラムを同時に動作させることができる.
スプールジョブは,カードリーダ,ラインプリンタ,あるいは紙テープリーダ/ライタなどの低速入出力装置と磁気テープとの間でバッチジョブの入出力データのコピーを行う.これにより,バッチジョブ実行時,低速入出力装置との入出力の代わりに,より高速の磁気テープ装置と入出力を行うことで,入出力による待ち時間を減らす.また,シンビオントは,低速出力装置であるラインプリンタに出力するデータを,直接出力せずにいったんディスクにはき出しておき,実際に印字するのは計算機の待ち時間を利用して行うものである.スプール,シンビオントともに,計算機の使用効率を高めてシステムのスループットを最大にしようとするものである.

(2)データ管理プログラム
 ディスクボリュームおよびディスクボリュームに収められているファイルの管理は,データ管理プログラムによって行われている.データ管理プログラムは,ファイル生成時のファイル領域の割付けや,ファイルの排他制御などを行う.データファイルとしては,順次編成ファイル,相対編成(直接編成)ファイル,索引編成ファイル,多面索引編成ファイルの4種類のファイルを作ることができる.
DPSII
1978年に発表されたMELCOM80モデル18,28に搭載されたDPSIIでは,仮想空間の概念が盛り込まれ,64キロバイトの論理空間のうち前の4キロバイトを共通空間とし,後の60キロバイトをプログラムごとに持つ仮想空間として本格的なマルチタスク処理を実現した.これにより,最大32台のマルチコンソール処理を可能にするとともに,簡易言語プログレスをさらに進化させたプログレスIIを搭載した.
DPSIII
1980年に発表されたMELCOM80モデル18,28,38,48日本語シリーズは,オフコンとして初めて24ドット×24ドットの表示・印字を可能にした端末装置をサポートした.MELCOM80日本語シリーズ用に開発されたDPSIIIには,強力な日本語データ処理機能が搭載された.その特長は次の5点にある.
(1) 日本語による操作性
日本語による見やすいジョブメニューが作成でき,ジョブ選択操作がファンクションキーを使ってワンタッチで行えた.また,システムの状態問合せキーによるエラー処理方法の問合せや,ユーティリティプログラムによるインタラクティブなオペレーションを行うことができた.
(2) 日本語データ処理機能
プログラミング言語にプログレスIIを用いることで,2バイト系文字と1バイト系文字のシフトコードを自動的に付加・削除したり,画面・帳票に日本語データを出力する際の桁合わせを自動で補正することなどを可能にした.また,かな漢字変換機能はもとより,会社名から“株式会社”,“有限会社”などを取り除いてソートする会社名ソートプログラムなど,各種日本語ユーティリティプログラムやサブシステムが準備された.
(3)日本語辞書ライブラリ
データベース構造となった日本語辞書ライブラリにより,各種の単語・熟語を高速アクセスでき,ユーザによる追加・削除を可能とした.
(4) 漢字種と外字処理
JIS第1,第2水準漢字を完全に含み,kg, cmなどJISで定義されていない特種マークも供給され,最大35,000字種までの漢字を取り扱うことができた.また,フォントパターンを作成して登録するユーザ定義漢字の追加機能もあった.
(5) 日本語処理性能
これら日本語処理が入っても,多端末処理性能を低下させないことも特長であった.
DPSIV
DPSIVは,DPSIIIの後継OSで,1982年10月からMELCOM80モデル48B用OSとして出荷開始された.DPSIVでは,プログラム実行空間が1メガバイトに拡大された.通常16ビットマシンでは,1プログラムで使用できる論理空間が64キロバイトに制限される.DPSIVでは,より大きなアプリケーションを動かすため,改善策として3つの手段を実現した.
第一に,DPSIIIではファイル処理のためのマクロ機能や入出力バッファとその他の実行時サブルーチンがすべてアプリケーションプログラム内に組み込まれて1論理空間を構成していたが,DPSIVではこれらをアプリケーションプログラム論理空間の外へ出す方式を実現した.これにより,平均で従来より20キロバイト大きいプログラムを組めるようになった.
第二に,オーバレイ手法を改善し,主記憶上でのオーバレイを可能とした.オーバレイとは,プログラムを1個の常駐区分といくつかの非常駐区分に分けて作成し,非常駐区分は通常ディスクにおかれ,論理空間中の常駐区分が占める部分以外の空き領域へ必要の都度ロードされて実行される手法である.この手法では,非常駐区分が切り換わるたびディスクアクセスが起こるので,応用プログラムに要求されている性能によっては採用できない場合がある.DPSIVでは,論理空間64キロバイトの制約を超えて最大1メガバイトまで非常駐区分を主記憶上に配置し,オーバレイによるディスクアクセスを不要にした.(図参照)

第三に,プログラムリンク方式により,サブプログラムを1個の独立したプログラムとして扱いメインプログラムから呼び出せるようになったことで,実質的にプログラム実行空間の制限がなくなった.
これら改善策により,64キロバイトの壁に苦労した応用プログラマの負荷を大幅に軽減した.また,索引ファイル・多面索引ファイルの索引部を主記憶上に常駐させる一種のディスクキャッシュ方式により,大幅な性能向上が実現された.