1965年(昭和40年)1月,富士通からFACOM 270シリーズの超小型機FACOM 270-10および小型機FACOM 270-20が発表された.両モデルは1965年11月に完成し,後に1968年2月に完成したFACOM 270-30(中型)が加わり,FACOM 270シリーズのラインアップが揃った.FACOM 270-20は,270シリーズの中心的なモデルである.270-20に対し超小型化を図ったのが270-10であり,性能と容量を増強したのが 270-30である.
このシリーズは小規模な科学技術計算とリアルタイムな制御処理(プロセス制御)に適用分野を絞って開発された.小型から中型のコンピュータ,特に小型は,汎用性に重点を置き過ぎるとコスト高になる.そのため,FACOM 270シリーズは,前述の適用分野に焦点を絞ることで,小型かつ低廉でありながら,その分野で大型汎用コンピュータに比肩する能力を発揮させるとのコンセプトをもって開発された.加えて,プロセス制御に利用するために,RTC(Real Time Controller) が用意された.このRTCは,同シリーズに標準の多用途入出力結合装置であり,各種のアナログ入出力装置やディジタル入出力装置をサポートするために,新たに開発された.
FACOM 270-10/270-20の発表当時,鉄鋼,セメント,化学,電力,自動車などの産業分野で,生産性向上,品質向上,製造管理の自動化を目指して,コンピュータを利用したプロセス制御の適用が,検討段階から実施の時期に移行のしつつあった.FACOM 270シリーズの開発コンセプトは,この時代のニーズに応えたものである.
以下,FACOM 270シリーズを代表して,FACOM 270-20について解説する.各モデルの機能の相違は表-1を参照されたい.
モデル名 | 270-10 | 270-20 | 270-30 | |
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中央処理装置 | 使用素子 | ディスクリート | ディスクリート | モノリシックIC |
演算方式 | 2進直列 | 2進並列 | 2進並列 | |
語長 | 16 bit | 16/32 bit | 16/32 bit | |
主記憶容量 (磁心記憶) |
1/2/4K語 | 4/8/16/32K語 | 4/8/16/32K語 | |
インデックスレジスタ | 3個 | 3個 | 3個 | |
割込みレベル | 1 | 12 | 12 | |
内蔵磁気ドラム容量 | — | 128K語 | 256K語 | |
データチャネル | — | 3 | 8 | |
入出力装置 | 磁気テープ装置 | — | 15.0—96.0 KB/s 200/556/800 rpi | |
磁気ディスク装置(容量) | — | 33MB | 33—134MB | |
磁気ドラム装置(容量) | 32 K語 (語:2 B) | 256KB | 256KB—2MB | |
カード装置 | — | 読取:100—800枚/分 せん孔:250枚/分 |
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ラインプリンタ装置 | — | 120—1,500行/分 | ||
紙テープ装置 | 内蔵装置 読取:200桁/分 |
読取:200—1,200桁/分 せん孔:100—200桁/分 |
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その他 | タイプライタ | ファコムライタ,XYプロッタ,データ通信制御装置 | ||
RTC(Real Time Controller) | 接続可 | 接続可 | 接続可 |
FACOM 270-20では,入出力データの単位コードが6ビットから8ビット(1バイト)へと移ってきていた当時(1960年代中葉)の趨勢から,8の整数倍を考慮して16ビット(2バイト)を1語とする構成が採用された.その他,FACOM 270-20は次の特徴をもつ.
- 内蔵磁気ドラムによるオペレーティングシステム
- 拡張性
- ALGOL,FORTRAN等,適用分野に沿ったソフトウェアの装備
- (1) 内蔵磁気ドラムによるオペレーティングシステム
- システムプログラム,科学技術計算およびリアルタイムな制御処理を行うためのプログラムを高速な磁気ドラムに格納しておくことで,FACOM 270-20は割込みに対する速やかな優先処理制御および速やかな応答性能を有した.なお,超小型のFACOM 270-10には内蔵磁気ドラムは装備されていない.FACOM 270-10の用途が,利用するプログラムすべてを主記憶に置いて運用できる範囲のプロセス制御に絞り込まれていたためである.
- (2) 拡張性
- 適用分野を絞ることで,小型かつ低廉でありながら,その分野で大型汎用コンピュータに比肩する能力を持たせるために,FACOM 270-20は,非常に小型にまとめられた基本構成から,利用状況に合わせて大きくできる拡張性を備えていた.図-1は最小規模である基本構成を示し,図-2は最大のシステム構成を示す.FACOM 270-20は大学の研究室での利用や設計に利用されることも多く,そのような用途では,基本システム構成に高速度紙テープ装置,XYプロッタやラインプリンタを加えたシステムが多く見られた.
図-2において,データチャネル装置(DCHU)には,FACOM 230シリーズ用のディスク装置,磁気ドラム装置,カード入力/せん孔装置,紙テープ入力/せん孔装置,ラインプリンタ装置,磁気テープ装置を接続できる.データチャネル装置(MTCU)には,FACOM 230シリーズにも繋がるFACOM 603A, 603B, 603D磁気テープ装置を接続できる.