【大阪大学】 EVLISマシン

EVLISマシンは,大阪大学工学部応用物理学科で1979年に提案発表し1982年に実現稼働させたマルチプロセッサによるLispプログラムの並列処理計算機である.実行性能は当時の外国製も含む超大型汎用機と競合できる性能を有し,また研究成果は情報処理学会論文賞として評価を得た.研究室は真空管計算機を作った歴史を持ち,1960年代後半から汎用機上でLispの処理系等の研究製作を行ってきた.思考がassociativeで並列に行われていることを想い,複数台のプロセッサによるLispプログラムの並列処理が計画された.1978年に修士論文のテーマとしてLispの並列処理を設定し,研究は具体的にスタートした.研究室の研究打ち合わせの場で,報告の中から打ち出されたのが関数evlisの第一引数の評価を並列処理すること等であった.これをEVLISマシンと命名し,Lispの並列処理に着手した.

1979年に,並列環境でのLisp向きの高性能なアーキテクチャを実現するため,EVAL IIと名づけたプロセッサを新しく研究室で独自に研究試作し使用することが提案された.修士学生3名がEVLIS,EVAL IIの設計製作を担当,斉藤年史(当時,大阪大学助手)がソフト,安井裕(当時,大阪大学助教授)がハード関係と全体をサポートし,1980年4月から製作を開始し,1982年1月阪大記号処理研究会でベンチマークプログラムを走らせた.マシンの製作費は,IC約2,500個等を含むシステム全体で約300万円であった.

EVLISマシンでは,リスト処理のほか,複数のプロセッサへの処理の割り付け,プロセッサ間の同期,リスト構造の書き換えを生じる関数の副作用の正しい伝播など,並列化に伴う問題はすべてプロセッサである各EVAL IIによって並列処理される.したがってLisp1.5の文法に則って作成された並列化を意識しないプログラムであってもEVLISマシンは自動的に並列処理する.

EVLISマシンの開発途上で,単体のEVAL IIを用いてLispマシンを構成した場合でも,当時存在した他のLisp専用マシンを凌ぐ性能を発揮していた.また当時大型計算機センター間で高速のM200-Hでの実行速度に匹敵する結果を得た.アーキテクチャの主な特徴は,マイクロ命令が48ビットで8kw,データバスとアドレスバスの区別をなくし,1命令内で3アドレスのALU演算と分岐演算を並列に行い,高速なディスパッチ機能に加えて,スクラッチパッドメモリ4kwがあり,他の演算と並列に働くCAR−CDR演算機能等である.そしてバッファやレジスタ等の内容を実行中に直接観測できる診断用インタフェースをハードウェアで装備している.EVLISマシンとしては,共有メモリのほかに,並列処理での各EVAL IIから直接高速にアクセスできるq-バッファを備えている.また診断用インタフェースを介してマシンの動特性等種々の立場での情報の収集ができる.

EVLISマシンはその後さらに強化拡張され,現在大阪大学工学部(吹田キャンパス)の電子計算機特別資料室に保存されている.

安井裕:「EVLISマシン」,情報処理,Vol.43,No.2,pp.121-122(2002)より編集)


  
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