磁気ドラム装置は,表面に磁性材料を塗った金属製の回転円筒のまわりに磁気ヘッドを多数おいて,書き込み・読み取りを行わせる記憶装置で,1950年代の初期のコンピュータの時代から使用されてきた.磁気ディスク装置に似ているが,磁気ドラムでは磁気ヘッドが移動しないため,書き込み・読み取り速度は磁気ディスクより高速にできる.当初多くのコンピュータで内部記憶装置として用いられ,その後磁心記憶の登場により外部記憶装置として利用されるようになった.
我が国の最初の磁気ドラムは,電気試験所がETL Mark IVの内部記憶装置用に1957年に開発した記憶容量1,000語,回転数18,000回/分のものである.この製作は北辰電機(後の横河北辰電機,現横河電機)が機械部分を,東京通信工業(現ソニー)が磁気ヘッド関係を担当した.北辰電機はその後磁気ドラムを製品化し,高速回転の内部記憶装置用と低速回転大容量の外部記憶装置用を開発した.前者は日本電気(以下NEC),日立製作所(以下日立)のコンピュータや九州大学の翻訳実験用計算機KT-1などに,後者はNECが開発した近畿日本鉄道向け座席予約システムに使用された.
1950年代に主記憶装置として用いられていた磁気ドラムは,1960年代には磁心記憶メモリが主記憶に導入されるようになったため,オンラインの高速補助記憶装置として,大容量データ蓄積用の磁気テープ装置と組み合わせて用いられるようになった.初期の磁気ドラム装置は固定ヘッド方式であった.この方式ではドラムの回転精度や温度膨張のため数十μmの隙間を必要とし,これが記録密度向上のネックになった.これを解決するため浮動ヘッド方式が開発され,1960年代後半には日本のコンピュータメーカでも実用機が開発された.NECは1966年に浮動磁気ヘッド,メッキ記録媒体を採用した高速大容量の磁気ドラム装置を大阪大学に納入した.富士通は1968年に浮動ヘッド方式を採用した大容量・高性能磁気ドラム装置を完成した.電電公社と日立は共同で従来の固定ヘッド方式の10倍の記録密度を持つ1号磁気ドラム装置(JS4150,4メガバイト)を1970年に完成した.日立は電電公社との共同研究の成果を利用して,HITAC-8000シリーズ用の磁気ドラム装置として1968年にH-8566を,1969年にH-8567を製品化した.