【富士通】 リレー式計算機 FACOM 128A,128B

FACOM 128Aは1956年に完成した国産初のリレー式商用計算機.富士通信機製造(現富士通)によって開発され,1956年9月にその1号機が文部省統計数理研究所へ納入された.
同機はFACOM 100の実績を基に回路動作,計算方式が根本的に改良されており,FACOM 100に対し演算速度が2~5倍に高速化され,記憶容量も増大された.
1958年5月には,FACOM 128Aの使用経験に基づいて改良されたFACOM 128Bが完成した.FACOM 128Bは,富士通沼津工場の池田敏雄記念室に展示されており,現在でも動作可能な計算機としては世界最古と思われる.

1.FACOM 128A
FACOM 128Aは当初FACOM 128と呼ばれたが,後にFACOM 128Aと改称された.FACOM 128Aには後のFACOM 128Bにも引き継がれた基本的な特徴が盛り込まれていた.以下,FACOM 128Aの特徴について述べる.
(1) ハードウェア概要
  • 非同期制御回路
  • 今日に比べ回路の複雑度が低い当時では,処理スピード重視の回路であった.
  • 記憶装置
  • 当時の交換機に利用され始めたクロスバースイッチが用いられた.計算用の一般記憶域は180語.1語は自己チェックのための冗長部を含め,69ビットで構成された.一般記憶域以外に,テープ記憶,印刷記憶,特殊記憶,などがあった.例えば,テープ記憶は4語からなり,各1語が1組の紙テープ穿孔機と読取機に対応し,順序処理のための記憶域として用いられた.
  • プログラム非内蔵方式
  • プログラムは紙テープや紙カード(フジカード)から与えられた.
  • インデックスレジスタ
  • FACOM 128Aではアドレス変更装置と呼ばれ,3個のレジスタに相当する記憶域が割り当てられた.
  • 自己チェック機能と自動再実行機能
  • 信頼性を確保するために,演算結果の自己チェック機能と自動再実行機能が装備された.
(2) 数字コードと数値精度
  • 10進法演算,2-5進(Biquinary)コード
  • 計算は,計算機の能力に適した10進法で行われ,数字表現には自己チェック能力がある7ビットの2-5進(Biquinary)コードが用いられた.
  • 8桁の有効数字と±19の指数部をもつ浮動小数点
  • ひとつの数値(1語)は8桁×10の±19冪乗の符号付10進数で表わされ(当時は移動小数点とも呼ばれた),自己チェックのための冗長部を含め,1語69ビットで構成された.
(3) プログラミング支援機能
  • 常数記憶装置
  • プログラムでよく使われる常数を組み込んだ装置.更新の無い簡単な方式の記憶装置である.用意された定数は,0~10,1/10, -1, π,sin 15, 底10のlog(e),底eのlog(10),など,約50個が用意された.常数記憶域の大きさは85語であり,拡張性のための空きが用意されていた.
  • 組込命令装置
  • 使用頻度の高いサブルーチンを機械内部に組み込んだ装置.常数記憶装置と同様な簡単な方式の装置.組み込まれた命令群には,複素数の積/商/平方根,対数,一部の三角関数や逆三角関数,等があった.組込命令装置には空きも含め50個の登録エントリが用意されていた.

以下,前述の特徴の中から幾つかの特に特徴的な要素について補足する. 計算機の利点は計算が速いことだけでなく,誤りの無さにあるとの設計思想は,同社初のリレー式計算機FACOM 100から受け継がれてきた.この設計思想に沿って,真空管に対する信頼性の高さゆえに素子としてリレーが用いられ,加えて,リレーの接触不良等への対策として,エラーの自己チェック機能と自動再実行機能が,FACOM 100以来装備されてきた.
ところで,FACOM 128Aにおいて,後のコンピュータで一般的となる2進数ではなく,2-5進コードの10進数による演算が行われたのは,自己チェック機能と性能の両面を配慮した結果である.内部的に2進数が採用された場合,入出力のたびに外部表現である10進数との間で変換が必要になり,性能を低下させる.また自己チェックを速やかに行うには個々の数字の誤りを単純にチェック可能な表現にする必要がある.このような要素を総合的に勘案した結果,FACOM 128Aでは数字コードとして7ビットから成る2-5進コードが採用された.

2.FACOM 128B
1958年5月に完成したFACOM 128Bは,FACOM 128Aの使用経験に基づいて改良され,次のとおり,性能強化と使いやすさの向上が図られた.
(1) 回路の改良などによる性能強化
  • FACOM 128AとFACOM128Bの性能比較(抜粋)
    演算種別FACOM128Aの性能FACOM128Bの性能
    加減算0.15秒0.1~0.2秒
    乗算0.15~0.4秒0.1~0.35秒
    除算開平算0.2~1.0秒0.1~1.4秒
    複素数の乗算1.8秒1.6秒
    常用対数logx5秒3.5秒
    16桁加減算--0.6秒
  • 16桁加減算
  • 高精度計算の高性能化を図るために追加された.
(2) 使いやすさの向上
  • 任意常数の設定
  • 常用記憶の使い方を見直し,基本常数をFACOM 128Aの約50個から約20個に絞り,代わりに,任意の常数を40組まで与え得る2台の常数カード読取機を設置し,柔軟性を向上させた.
  • マニュアルの提供
  • 今日でこそコンピュータにマニュアルがあるのは当然だが,当時は必ずしもそうではなかった.FACOM 128Bのために提供されたマニュアルは実用本位の素朴なものであったが,内容は細部に渡っており,多くの人の利用を考慮したものであった.

以上のように性能と利用性を向上させたFACOM 128Bは,多元連立方程式,高次代数方程式,固有値問題,微分方程式,積分方程式,統計解析,実用的な商用機として,モンテカルロ法など,様々な数値計算の分野で利用された.産業界においては,カメラのレンズ設計や国産旅客機YS11型機の設計,あるいは計算サービス*など幅広く利用された.
 *我が国初の有料計算サービスは,1956年,FACOM 128Aを用いて,有隣電機精機によって行われた.

 
左下はFACOM 128のシステム(手前は操作台),右上の写真はリレー架沼津工場池田敏雄記念室に動態展示されている1959年製FACOM 128B