野口正一は1930年3月5日生まれ.野口は,我が国におけるコンピュータおよびネットワークの研究開発の重要なパイオニアの1人である.野口の情報科学における最初の貢献は,代数的オートマトン理論およびセルラーオートマトン理論における代数論に基づく統一理論の確立である。主な研究成果には増永良文等とともに行った代数理論によるオートマトンの特性化理論、原尾正輝等とともに行った一次元セルラーオートマトンの完全性の証明等がある。これらの理論的研究成果を中心に、野口は東北大学の同僚とともに代数的オートマトン理論の分野で東北大学学派を確立した。
第二の貢献は1950年代後半の初期,東北大学と日本電気の産学協同による大型パラメトロンコンピュータSENAC-1の開発であった.パラメトロンは1954年に後藤英一により発明された論理素子である。当時,東北大学大学院博士課程に在学していた野口は,東北大学のメンバの中心となり日本電気の石井善昭,渡部和らと協力して当時日本最大のコンピュータSENAC-1を1960年に完成させた. SENAC-1は浮動小数点の四則演算機能を持った48ビットのコンピュータであり,コンピュータアーキテクチャの面からみても次のコンセプトが具現化された斬新的なコンピュータであった.(1)先行制御(2)パイプライン制御(3)共通バス制御等,使用したパラメトロンの個数が1万個強の環境では実現された回路は単純なものであったが,設計の上からみた設計概念は今でも通用する.パラメトロンコンピュータの研究開発は副次的に日本における多数決論理の研究に多くのインパクトを与えたことも特筆に価する.
また,野口のコンピュータ開発の理論面での大きい貢献は,坂田真人との協同による世界で最初に行われたタイムシェアリングシステムの理論解析である.同時にこの研究からタイムシェアリングに対しスペースシェアリングのコンセプトを導いた.一方,コンピュータネットワーク研究開発において野口の果たした役割は大きい.東北大学大型計算機センター長であった1985年より7大学大型計算機センターのメンバを中心としてコンピュータネットワーク研究開発を推進した.一方,国立大学における本格的な大規模学内ネットワークを我が国で初めて東北大学学内ネットワークTAINSとして完成させた.その後野口正一は全日本アカデミックネットワーク研究会JAINをはじめ文部省科学研究費等による数多くのネットワーク研究プロジェクトを推進し,我が国のインターネットをはじめとするネットワーク研究の発展に重要な貢献を果たしている.
野口は,1993年東北大学を定年退官後,日本大学工学部教授となり,1997年会津大学学長に就任,2001年4月には仙台応用情報学研究振興財団理事長に就任した.情報処理学会では, 1995〜97年会長を務めた.
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