日本のコンピュータパイオニア

北原 安定北原 安定
(きたはら やすさだ)
1914〜1994

北原安定は1914年11月5日生まれ.1940年3月早稲田大学理工学部電気科卒業.1965年「同軸ケーブルの研究」により工学博士の学位を得た.  

1940年4月逓信省に入省し,1963年電電公社九州電気通信局長,1965年施設局長,1970年総務理事,1974年技師長,1977年副総裁,1985年NTT代表取締役副社長を歴任した.一貫して戦後の荒廃した電気通信網の復興に取り組み,後半生は技術陣のとりまとめ総帥としてとして電話網の整備,高度化を指揮した.その結果電話の積滞解消(1978年),自動即時化(1979年)が実現した.

コンピュータの観点から見た北原の最大の功績は,ポスト電話時代の電電公社経営を見据えて1960年代前半という早期にデータ通信,ファクシミリ通信等の非電話系通信ビジネスを提案し具体化したこと,および通信網のディジタル化を強力に推進したことである.  北原は1966年に電信電話に次ぐ電電公社の第3のビジネスとしてデータ通信サービスを提唱した.このビジネスは1968年の群馬銀行および全国地方銀行協会データ通信サービスを皮切りに,公共,金融分野を中心に発展し,1990年にはNTTから独立し現在のNTTデータ通信株式会社が設立された.

1978年には世界コンピューター通信会議において,また1979年には世界電気通信フォーラムにおいて,音声,映像,データ通信を全てデジタル形式で,すなわちサービス統合デジタル網Integrated Services Digital Network(ISDN)を用いて,かつ統一した料金体系の下でサービスを提供するというビジネス構想“高度情報通信システムINS(Information Network System)”を提案し世界各国の注目を浴びた.

この提案を具体化するため1981年よりINSの開発を陣頭指揮した.NTTは1984年には三鷹市でINSモデルシステム実験を行いINSの設備と各種アプリケーションの展示を行った.1988年にはINSネット64,1500サービスを開始した.これが世界におけるISDNサービスの嚆矢である.

北原は1988年NTT副社長を辞し同顧問についた.その後科学技術会議議員,通信放送協力委員会委員長等の要職をつとめた.1994年4月1日没.

この間北原は1976年に電気情報通信学会会長,1990年日中科学技術文化センタ理事を務めた.また電電公社総裁表彰,前島賞,科学技術庁科学技術功労者表彰,毎日工業技術特別賞,電子情報通信学会業績賞,同功績賞,同名誉会員,北京郵電学院名誉教授,IEEEフェロー等の栄誉を得た.


(戸田 巌)