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電気電子・情報関連5学会の技術史活動への取り組み状況
ー4. 情報処理学会の技術史活動

旭 寛治(日立テクニカルコミュニケーションズ)

電気技術史研究会予稿HEE-06-5(2006/05/12)より転載


情報処理学会の技術史活動は,まず学会の創立10周年を記念して1970年10月に歴史研究委員会(主査:末包良太)を発足させたのが嚆矢である。この委員会では先駆者の方々に講演をお願いしたり,聞き取り調査などを行なった。また学会誌に「日本における計算機の歴史」(5)を連載することを提案し,この結果1974年から78年にかけて10編の解説が掲載された。

1980年10月,東京でIFIP Congress 80 (IFIP: International Federation of Information Processing) が開催され,IFIP初代会長のIsac L. Auerbach氏がIFIP理事会でIFIPが世界のコンピュータの歴史をとどめておくことの必要性を説き,米国ではAFIPS (American Federation of Information Processing Societies) が既に活動を始めていると述べた。この提案はIFIPとしては決議にいたらなかったが,これを聞いた当時の副会長高橋茂が刺激を受け,情報処理学会理事会に歴史特別委員会(委員長:高橋茂)の設置を提案,了承を得た。

第1回歴史特別委員会は1981年7月に開かれた。この委員会では資料の収集・整理などは行なわず,単行本の発行を計画立案し,実行することを目的とした。対象は日本の初期のディジタルコンピュータの歴史に絞り,1960年頃までの研究開発の足取りをいくつかの視点から記述することにした。1985年に「日本のコンピュータの歴史」(6)として出版されると,10年後に再び活動を開始するまで本委員会は自然休会の形となった。

1995年3月,休眠していた歴史特別委員会が再開され,1980年頃までの我が国のコンピュータ技術と産業界の変遷を概観して記録にとどめることになった。当初の計画では1996年9月に出版することにしていたが,多数の執筆者を必要とするこの種の出版物の常として,全体を取りまとめ,調整を終えたときには,2年近く遅れ,1998年6月になって漸く「日本のコンピュータ発達史」(7)が出版された。

その後委員会はまた暫く休会となったが,2000年4月に国立科学博物館(科博)から産業技術史研究への協力要請があったことがきっかけとなって,活動が再開された。高橋委員長を始め歴史特別委員会の委員数人が科博の委員会の委員として活動する一方で,歴史特別委員会の中にオフィスコンピュータ歴史調査小委員会(主査:浜田俊三)を設置して科博からの委託研究「オフィスコンピュータの歴史調査と技術の系統化に関する調査」を実施した。この結果は2003年12月に科博から「技術の系統化調査報告第3集」(8)として刊行された

科博との連携活動と並行して,歴史特別委員会では日本のコンピュータ界の代表的なパイオニア60余名を選定し,2001年12月にそれらの人々の紹介記事と写真を情報処理学会のホームページに掲載した。

これに先立つ2000年4月に情報処理学会は創立40周年を迎えた。翌年3月の全国大会で40周年記念行事として「情報技術のエポック展」(9)を開催し,国立科学博物館の他,メーカや大学に保存されている歴史的なコンピュータの実物展示を行った。NEAC-1101 (1958年, 日本電気),HITAC 5020 (1965年, 日立)など初期の大型コンピュータ数台を含め50点余りの機器が展示され,産学官の関係者を始め,約2500名の見学者が来場し,大盛況であった。わが国でコンピュータが誕生してから半世紀が経過し,初期のコンピュータの開発に携わった人たちは高齢になり,既に他界された方々も少なくない。あちこちに残っていた古い機器は時とともに散逸し,このままではわが国の情報技術の歴史的な事実を後世に伝えることは困難になる。40周年記念展示の責任者であった旭寛治は,このような危機感から情報処理学会のホームページにバーチャルなコンピュータ博物館を設置することを提案し,2001年11月,歴史特別委員会の中にコンピュータ博物館実行小委員会(主査:旭寛治)が設置された。

この委員会では,わが国のコンピュータの黎明期である1950年代からおよそ40年間にわたる発展の歴史を年表と解説記事にまとめるとともに多数の機器の写真を収集し,既公開のパイオニア紹介記事と統合して,2002年8月にコンピュータ博物館(10)として公開した。その後も継続して掲載機器の追加作業を実施し,現在では約500件の解説記事と1500点を超える写真が「黎明期のコンピュータ」「メインフレーム」「スーパーコンピュータ」「オフィスコンピュータ」「ミニコンピュータ」「ワークステーション・Lispマシン」「パーソナルコンピュータ」「日本語ワードプロセッサ」「周辺機器」の9カテゴリに分類されて展示されている。これだけの規模のバーチャル博物館は世界的に見ても類がないと思われる。

歴史特別委員会では,2002年2月に学会誌に特集「知られざる計算機」(11)を企画し,1960年代,70年代に各地で試作された古典的計算機について,それらの関係者が執筆した解説記事12編を掲載した。また,2002年10月から2004年1月まで「日本の情報処理技術の足跡」(12)を連載し,漢字・日本語処理技術の発展,プラグコンパティブル・メインフレームの盛衰等,解説記事17編を掲載した。

歴史特別委員会では,コンピュータ博物館に掲載されているパイオニアへの聞き取り調査を2003年に開始した。当初聞き取りを予定していたパイオニアの中には亡くなった方や高齢のため辞退された方もあり,ゆっくりしてはいられない状況になりつつある。2005年4月には歴史特別委員会の中にオーラルヒストリ小委員会(主査:山田昭彦)を設置して体制を整え,これまでに7名のインタビューを実施済みである。

本年は1956年にわが国最初の電子計算機FUJIC(富士写真フィルム)やETL Mark III (電気試験所)が誕生してから50周年に当る。これを記念して去る3月に「日本のコンピュータ生誕50周年記念シンポジウム」を開催した。同時に開催された情報処理学会創立45周年記念全国大会では,ETLMark IV A(1959年,電気試験所),座席予約システムマルス101(1964年,日立・国鉄)などの現物を展示するとともに,FUJICの等身大写真や1950年代から現在までのエポックメイキングとなったコンピュータを映像で紹介した。

2003年から始まった電気・情報関連5学会連携の卓越技術DBプロジェクトには,歴史特別委員会で取り組んでいる。コンピュータ博物館で先行して収集してきた財産が有効に活用できる点で,他の学会とは異なったポジションにあると言えよう。

プログラミングシンポジウムの関係では,1996年夏のシンポジウムで「コンピューティングの歴史」を開催し,第40回の冬のシンポジウムで大駒誠一が「計算機の歴史の研究の現状」と題する招待講演を行った。

情報処理学会創立30周年には「30年のあゆみ」(13)を刊行,また40周年及び45周年には学会創立から現在までに発行された会誌,論文誌,研究報告のすべてを収録したCD-ROM/DVD (14-15)を発行した。

参考文献
(5) 連載:「日本における計算機の歴史」,情報処理学会誌,Vol.15, No.8(1974.8)~Vol.19, No.8(1978.8).
(6) 情報処理学会歴史特別委員会:「日本のコンピュータの歴史」,(1985.8)
(7) 情報処理学会歴史特別委員会:「日本のコンピュータ発達史」,(1998.6)
(8) 独立行政法人国立科学博物館産業技術史資料情報センター:「オフィスコンピュータの歴史調査と技術の系統化に関する調査」,技術の系統化調査報告,第3集,pp.1-46(2003.12)
(9) 山本喜一:「情報処理学会創立40周年記念展示会-情報技術のエポック展報告」,情報処理学会誌,Vol.42, No.6(2001.6)
(11) 特集:「知られざる計算機」,情報処理学会誌,Vol.43, No.2(2002.2)
(12) 連載:「日本の情報処理技術の足跡」,情報処理学会誌,Vol.43, No.10(2002.10)~Vol.45, No.1(2004.1)
(13) 情報処理学会:情報処理学会30年のあゆみ-活動の軌跡と技術展望(1990.10)
(14) 情報処理学会:情報処理学会40周年記念CD-ROM 1960-1999(2000.10)
(15) 情報処理学会:情報処理学会45周年記念DVD 2000-2004(2006.3)